憧れの彼が、私のとなりに座る理由。
人畜無害な私ゆえ?
「となり、空いてますか?」
「は、はい……どうぞ」
このやりとりが始まって既に二週間。
始発のバス停が私の家のまん前で、終点は私が通う高校。
別に通学が楽チンだからと受験した訳じゃないけど、結果オーライだ。
私はいつもバスの後部の二人席、進行方向左側の窓側に座る。
なぜかというと、その方が誰にも迷惑がかからず、気を遣わなくて済むからだ。
ノートと教科書を広げ、やり残した宿題にとりかかる。
で、冒頭。
「となり、空いてますか?」
そう聞いてきたのは、隣のクラスの池上君。
彼がバスに乗る頃には、二人がけの席は、既にだいたい一人ずつ腰かけている。
「は、はい……どうぞ」
もちろんそう答えるが、なぜいつも彼が私の隣に座りたがるのか、いまいちわからない。
彼は席に腰を降ろすと私と同じようにノートと教科書を広げ、シャーペンを手にした。
このことを『友達の友達の悩み』として、クラスメイトのアケに相談すると。
「ああ、それはトモ(私の名前)が人畜無害感が半端ないからよ。その人に限らず、バスや電車で必ずあんたの隣から席が埋まっていかない?」
「ちょっ! 友達の友達の話だっていったじゃない!」
なんで私の話しだとバレたかは置いといて、アケが主張する理由が本当だとすると、あまりにも悲しすぎる。
でも、思い当たるフシが無くもない。
池上君本人に直接聞きたいけど、私にそんな度胸はない。
そんなやりとりの翌日。
あっけなくその理由がわかった。
たまたまその日は、私の隣の席は、『ここ、いい?』と言って、年配のおじさんが座った。
やっぱ私、人畜無害?
次の停留所で池上君が乗ってきた。
私の隣が既に埋まっていることに気づき、少し困ったような表情を浮かべたが、『ここ、空いてますか』と聞いて、私の一つ前の通路側の席に座った。隣は、同じ学校に通う、多分三年生の女子生徒。
いつものように、彼はノートと教科書を取り出し、シャーペンを持つ。
そこで、不都合なことが起きた。隣の女子生徒もシャーペンを持っていて、それが彼のシャーペンとぶつかりあったのだ。
そう、彼は左利き、隣の女子は右利き。
実は私も左利きだったのだ。
なあんだ、そんな理由か。
人畜無害感よりマシかも知れないが、マシなだけだ。
マシだけど、ガッカリ感は、より強い……ズーン。
もちろん、このことはアケには報告をしない……するもんか。
さらにその翌日。
私は気まぐれでバスの後部座席、進行方向右側の通路側に座った。
池上君がバスに乗り込んできた。
いつも私が座っている座席が既に埋まっているのを見ておや、という顔をしたが、すぐに私に気がついた。
反射的に顔を伏せる。
「となり、空いてますか?」
私に尋ねてきた。
「あ、空いてますけど、前の席、まるまる空いてますよ?」
「あ、そうですけど……よかったらとなり、いいですか?」
「は、はい」
彼は、「ワリィです」と言い、私の前を横切って、窓側の席に座った。そして、勉強道具を広げる。
高校まであと停留所二つというところで彼は、ノートや教科書をカバンにしまい、少し間をおいて話しかけてきた。
「僕はね、トモさんに憧れていたんです」
「はっ?えっ? 私のこと知ってるの?」
「当たり前です。だって試験の順位、いつも十位以内で貼り出されてるじゃないですか」
「そ、そうだけど、池上君だっていつも上位の方じゃない?」
「知っててくれたんですね。でも、トモさんにはなかなか追いつけない……だから、隣に座って勉強法を盗んでたんです。白状しますけど」
人畜無害よりも、利き手が同じよりも、なんぼかマシな理由だけど……やっぱりマシなだけだ。
「そうして、順位表でトモさんの隣に並びたかったんです……このバスの席のように」
そう言うと、「ワリィです」ですと言って再び私の前を横切って座席を離れ、バスを降りる。
慌ててその後を追いかける。
これは、悪友のアケに堂々と報告できるやつだと思った。
おしまい。
「は、はい……どうぞ」
このやりとりが始まって既に二週間。
始発のバス停が私の家のまん前で、終点は私が通う高校。
別に通学が楽チンだからと受験した訳じゃないけど、結果オーライだ。
私はいつもバスの後部の二人席、進行方向左側の窓側に座る。
なぜかというと、その方が誰にも迷惑がかからず、気を遣わなくて済むからだ。
ノートと教科書を広げ、やり残した宿題にとりかかる。
で、冒頭。
「となり、空いてますか?」
そう聞いてきたのは、隣のクラスの池上君。
彼がバスに乗る頃には、二人がけの席は、既にだいたい一人ずつ腰かけている。
「は、はい……どうぞ」
もちろんそう答えるが、なぜいつも彼が私の隣に座りたがるのか、いまいちわからない。
彼は席に腰を降ろすと私と同じようにノートと教科書を広げ、シャーペンを手にした。
このことを『友達の友達の悩み』として、クラスメイトのアケに相談すると。
「ああ、それはトモ(私の名前)が人畜無害感が半端ないからよ。その人に限らず、バスや電車で必ずあんたの隣から席が埋まっていかない?」
「ちょっ! 友達の友達の話だっていったじゃない!」
なんで私の話しだとバレたかは置いといて、アケが主張する理由が本当だとすると、あまりにも悲しすぎる。
でも、思い当たるフシが無くもない。
池上君本人に直接聞きたいけど、私にそんな度胸はない。
そんなやりとりの翌日。
あっけなくその理由がわかった。
たまたまその日は、私の隣の席は、『ここ、いい?』と言って、年配のおじさんが座った。
やっぱ私、人畜無害?
次の停留所で池上君が乗ってきた。
私の隣が既に埋まっていることに気づき、少し困ったような表情を浮かべたが、『ここ、空いてますか』と聞いて、私の一つ前の通路側の席に座った。隣は、同じ学校に通う、多分三年生の女子生徒。
いつものように、彼はノートと教科書を取り出し、シャーペンを持つ。
そこで、不都合なことが起きた。隣の女子生徒もシャーペンを持っていて、それが彼のシャーペンとぶつかりあったのだ。
そう、彼は左利き、隣の女子は右利き。
実は私も左利きだったのだ。
なあんだ、そんな理由か。
人畜無害感よりマシかも知れないが、マシなだけだ。
マシだけど、ガッカリ感は、より強い……ズーン。
もちろん、このことはアケには報告をしない……するもんか。
さらにその翌日。
私は気まぐれでバスの後部座席、進行方向右側の通路側に座った。
池上君がバスに乗り込んできた。
いつも私が座っている座席が既に埋まっているのを見ておや、という顔をしたが、すぐに私に気がついた。
反射的に顔を伏せる。
「となり、空いてますか?」
私に尋ねてきた。
「あ、空いてますけど、前の席、まるまる空いてますよ?」
「あ、そうですけど……よかったらとなり、いいですか?」
「は、はい」
彼は、「ワリィです」と言い、私の前を横切って、窓側の席に座った。そして、勉強道具を広げる。
高校まであと停留所二つというところで彼は、ノートや教科書をカバンにしまい、少し間をおいて話しかけてきた。
「僕はね、トモさんに憧れていたんです」
「はっ?えっ? 私のこと知ってるの?」
「当たり前です。だって試験の順位、いつも十位以内で貼り出されてるじゃないですか」
「そ、そうだけど、池上君だっていつも上位の方じゃない?」
「知っててくれたんですね。でも、トモさんにはなかなか追いつけない……だから、隣に座って勉強法を盗んでたんです。白状しますけど」
人畜無害よりも、利き手が同じよりも、なんぼかマシな理由だけど……やっぱりマシなだけだ。
「そうして、順位表でトモさんの隣に並びたかったんです……このバスの席のように」
そう言うと、「ワリィです」ですと言って再び私の前を横切って座席を離れ、バスを降りる。
慌ててその後を追いかける。
これは、悪友のアケに堂々と報告できるやつだと思った。
おしまい。


