勇者に嫌われていると思ったら、実は執着されていました
番外編 ある魔法剣士から見たジェダの話
※ヤンデレ注意
※時間軸は本編より前の話です
※魔法剣士のレオ視点






 ジェダの頰が緩んでいる。小さな袋を開けては閉じていた。何か大切なものでも入っているのだろうか。子供のように落ち着きがない。

「ジェダー。何見てんの?」
「ただの飴だよ」
「ふーん。俺にもくれ」

 手を出すと眉間に皺が寄る。

「この飴は特別なものなんだ。別の砂糖菓子をやるよ」
「おう。ありがとうな」

 綺麗な細工菓子を分けてくれた。
 口に含むと滑らかに溶けて消えた。美味い。一気に食べ終え、もう一袋とねだるが「これは非常食だ」と歯切れが悪くなった。

「セレナにあげる菓子か。じゃあいいや」
「……」

 時々、餌付けをしている所を見かける。ジェダは街で美味しそうな菓子を購入しては、セレナに見せびらかしている。
 セレナは侯爵令嬢で、庶民が食べるお菓子を知らない。もの珍しそうに菓子を眺めては「欲しい」と言わせているのだ。
 どうして素直になれないんだろうな。

 水浴びを終えたセレナとジュリアが帰ってきた。ジェダが慌ててタオルを取り出し、セレナを乱暴に拭いた。

「まだ濡れてるだろ」
「痛い、いたい、いたいぃ〜!」

 艶めいたセレナを誰にも見られたくなかったんだな。でもそれ逆効果じゃね?
 案の定、セレナが悲しそうな目をしてる。きっとジェダの前で、綺麗にセットした髪を見て欲しかったんだろうな。

「もうやめて。この間も乱暴にフードを()いだから、ボタンが一つ、どこかいっちゃったよね」
「あれは飾りが取れただけだ。それに他の石で修理しただろ」

 セレナのフードには青いボタンが煌めいている。ジェダの瞳と良く似ていた。

「私の目と同じ色で、細工が綺麗だったの。お気に入りのボタンだったのに」
「華美な装飾品を着けてくる方が悪い」
「……!」

 ジェダは女心は皆無だ。多分、セレナはジェダの前で着飾りたかったのだろう。装飾用のボタンを購入して、「男の人から見て、このボタンって私に似合ってる? 変かな?」と俺に何度も確認をしていた。
 まあ、その後はジェダに睨まれたけど。 

 言い合う二人のトーンが険しくなっていく。
 俺はジュリアに目配せをした。阿吽の呼吸で今日も喧嘩を阻止しようと動く。
 ジュリアがセレナを背後から抱きしめた。ジェダの目が驚愕で見開き、悔しそうにジュリアを睨んでいる。

「セレナ〜。ジェダなんか放っておいて、あっちで髪をセットしてあげる」
「ジェダ。俺たちも水浴びに行こうぜー」

 二人は何か言いたげだったが、有無を言わせずに引き剥がした。
 子守大変。俺まだ21歳なんですけど。

 ジェダはしぶしぶと俺の後に着いてきた。
 そしてまた飴の袋を開いては眺めている。飴が入った袋は布状のもので、中身は見えない。
 特別に良いものなのか? 俺はただの好奇心で袋を透視した。

 袋の中で丸いものが動いている。ジェダは愛おしそうに手のひらで包み、ころころと揺らしていた。

 なんだ、あれ。飴じゃないな。なんか黒い円のような……。
 そう言えばセレナが買った、黒色のボタンに似ている。

 視界が元に戻る。ジェダが反射魔法を仕掛けてきた。青い澄んだ眼球だけが、ゆっくりと俺を捉える。

「レオ。それ以上は見るな」

 今まで聞いたことのない凄んだ声。俺の鼓膜をじわじわと突き刺す。身体は発汗しているのに口腔はカラカラになった。
 俺は喉を振り絞って声を出した。

「ジェダ。お前、まさか」
「ただの飴だよ。俺にとって格別に甘い飴だ」

 プラチナブロンドが綺麗に揺らめく。爽やかな顔でジェダは口角を上げた。
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