眷属少女のブーケット
天国?
暑い。
寒い。
苦しい。
痛い。
朦朧とした意識の中で、デイジー、チューリップ、マリーゴールド、キキョウ、ヒマワリ等の花々がこちらを見下ろすように大きく咲いている。
これは夢だろうか、それとも自分はもう死んで天国へ来たのか?
だがその割には身体中が激痛まみれだ…息を吸っただけでも胸に痛みが走り、そのまま再び意識を手放す。
◇
急に意識が鮮明になるような感覚と共に目を開けると、真っ白な天井が飛び込んできた。
頭は痛いが、さっきまでの朦朧としていた時とは違って意識はハッキリとしている。
「い゛ぎで゛る」
そう呟いた声は自分でも驚くほどガビガビで、胸の奥や喉が焼けるように痛んで咳き込んだ。
吐血したせいだろう。
不意に左隣りから何かの気配を感じて首を向けると、大きな ピンク色のチューリップ がいた。
「…」
「…」
「え゛っ?」
なんでこんなに驚いているのか、というのもそのチューリップは首から上だけがチューリップで、下は普通のメイド服を着た人間だったのである。
私もガルボン家のメイドとして、今まで遠くの国から来た従者やメイド達を沢山見て来たが、頭が花のメイド…いやそもそも人間なんて見たことが無い。
痛みで動けず、寝かせられたままの状態だからこそ落ち着いた反応をしているけど、普段の状態でこんなにもワクワクする存在に出会えば、ベッドから飛び上がって「なんじゃこりゃあ!?」と叫んでいただろう。
チューリップさん(とりあえずこう呼ぼう)は何も言わず(というか喋れるのか?)何のリアクションも起こさず(でも分かりづらいだけで驚いているのかも?)ゆっくりと部屋から出ていった。
目の前からインパクトのあった存在が消えたことにより、今度は落ち着いて部屋を見渡してみる。
2つの窓からは明るい日差しがさしていた。机と椅子にソファ、クローゼットに本棚に今私が寝かせられているベッドから壁まで全て白と黒とピーコックグリーンで色が統一されている。
センニチコウが生けられた花瓶を含めて、シンプルかつ作りの良い家具ばかりで、これはいーい部屋ですな~と羨ましくなってしまう。
(…センニチコウ?)
不意に部屋の外が騒がしくなったかと思うと、バンッと部屋のドアが開く。
見てみると、あの人が…あの綺麗な人が立って私と同じように驚いた表情でこちらを見ていた。
よっぽど急いで来たのか、肩で息をしている。
暫くお互いそうやって動けずにいれば、息を整え終わったあの人が笑顔でベッドまで飛んで来た。
逃げている際は気付かなかったが改めて近くで見ると、思っていたよりも背が高い男の人だ。
私と比較すると20センチ以上は差があるかもしれない。
両手で左手を取って包み、口を開く。
「良かっタ!気がついたんデスネ!」
「…」
「あの後すぐに手当てしたのデスガ、間に合うかどうかは五分五分だったので…でもとにかく、目を覚ましてくれて嬉しいデス!!」
「…」
「?アレ?言語、あってマセンカ?それともボクのこと、覚えてマセンカ?」
「だっゲホッゲホッ」
私が何も言わないことを不安に思ったのか、笑顔はすぐに心配そうな表情に変わる。
何か返事をしなくては、と声を出そうとするも咳しか出ない。
そんな私を見て彼は「アアー!!ちょっと!ちょっと待っててクダサイ!!」と叫んでドアを壊す勢いで部屋から飛び出して行った。
◇
暫くすると、今度は頭が花ではない数人の不思議な髪色をしたメイドを引き連れて彼が戻って来た。
彼に背を支えられ、ゆっくりと上体を起こされる。
「すみませんすぐに気付けなくて…さ、コレを飲んでクダサイ」
そう言い終わってすぐに、反対側からメイドが差し出してきたティーカップを受け取って口元まで近付けてくれた。
中は普通の紅茶に見える…あまり湯気がたっていないところを見ると、すぐ飲みやすいようぬるめに淹れてくれたのか。
右手が動かないため、震える左手を添えてゆっくりと流し込む。
また喉から胸の奥までヒリヒリと痛みが走る。
むせ返りそうになるも、せっかく用意してくれたものだからと頑張って飲み干した。
口内にカモミールの香りと蜂蜜の甘さが広がり、思わず口から「うまっ」と声が飛び出る。
「ん?あっ!あーあー声が出る!!」
不思議なことに、あの嫌な痛みが消えて自由に声が出せる。
呼吸するだけでもあんなに苦しかったのに、紅茶のおかげだろうか?
「辛そうでしたので、薬がわりに用意しまシタ。気に入っていただけたのならもう少しいかがデスカ?」
またすぐに2杯目の紅茶が差し出される。正直言うともっと飲みたかったのでこれはありがたい。
「いただきます」