月が青く染まる夜に
こちらも噛み合っていないのに、真奈美さんが勝手に話を進める。

「さっき紗菜ちゃんが言ってたでしょ?猫と距離を縮める極意!」

「極意っていうか、一般的なやつですよ」

「もう一回!頭に叩き込むから!」

笹原さんは今度はこっちを向いて手を合わせる。
彼もだいぶ酔いが回っているのではないだろうか。

「ですから、猫さんがもしも緊張からシャーシャー言ってるんだとしたら、……正面から目と目を合わせて…、そして、名前を呼んだり、撫でたり……」

さっきと同じことを繰り返したものの、口にすればするほど、先週のクリスマスの夜を思い出してしまった。


普段はあまり合わない目と目を正面で合わせて、迅和くんとケーキを食べたあの夜は、私にとっては特別だった。
名前も呼んでないし撫でてないから、セーフ!

たぶんこの話をしている瞬間も、彼は私を見ているのだろうと思うと顔は上げられない。
息が詰まりそうになって、ビールを流し込んだ。


「とっきー、聞いた?名前を呼んで撫でてあげるんですってー」

わざとらしい真奈美さんからのフリに、迅和くんは鍋を食べながらちょっと考えたような表情を浮かべたあと、気のない返事をした。

「あーはい。分かりました」

「知ってるの?紗菜ちゃんが飼ってる猫の名前」

「知りません。猫を飼ってるのも今知りました」

「会話が足りなすぎるんじゃない?」

「ガガ様、俺が呼んでも振り向いてくれないんだよぉ」

最後の一言は、笹原さんのもの。


「「「ガガ様!?」」」

全員が突っ込んでしまった。


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