2Kの君~終電帰りの限界OL、2Kの扉を開けたら異世界騎士の部屋でした
 続く暗殺者らをどうにかしてくれ、と言ってきたのは他ならぬ三人の王子たちだったのだが……。蔦薔薇の麗しの君。という単語に、ぴくりと眉をあげたラストゥーリャは、何かを言いかけてやめた。

 豪胆さで名高い第一王子も、神童の誉れ高い第三王子も、腸は真っ黒なのだ。
 それが二人束になってかかってこられると、舌戦で勝てる自信は余り無い。

 どちらかというと純粋で熱血だった第二王子も、少年から大人になる頃には、腹に一物抱えるようになった。つまり、捻くれたのだ。浅慮な者達の意図と反し、三人の王子達は結束を深め、笑顔で毒を吐き出す。政治の舞台では非常に有効的な所作を自然と身に着けた。

 しかし……乳兄弟である自分にまでそれを向けなくても良いではないか。二ヶ月も帰ってこなかったのは計算外だったが。本来ならお咎め、どころでは済まされない。しかし、騒ぎの当事者たる三人の王子達は、ラストゥーリャに真実を告白することを許さなかった。

「ところでトゥーリャ、シェイルは私たちにも、仔細を教えてくれないのだが、どうしたものか」

 第一王子ラエルの言葉を引き継ぐように、第三王子ディエルが「理由もなく、はいそうですか、と『立太子もしたくない』と頑なになっているアレの言い分をそのまま飲む訳にもいかないしねえ」と続ける。

「私たちの共通認識としては――自分には相応しくないから是非とも他の者に(嫌なものは嫌)――になるな。かと言って『父上の決めた相手と政略結婚なんかしないんだからあああ!』とこっ恥ずかしい台詞は吐けぬが」

 因みにシェイルはそんな乙女的発言はしていない。

「うーん、でもさ、トゥリローゼのシェリル姫はラエル兄上の好みにぴったりだと思うけれど。向こうも乗り気みたいだし、僕はもうちょっとお若い方がっていうのが本音」

 話題のシェリル姫はディエルとシェイルより四歳年上。
 ラエルの二歳年上である。

「年上の女性もなかなか良いぞディエル」

 外野から横槍を入れるまでも無く、次の王座を押し付けあっているのは、この三人だった。

「僕は狭量だから……トゥーリャ」

「仰りたいことは、判りました……」

 時折混ざる自分の名に、内心びくびくしていた黒き賢者は、第二王子を売ることに決めた。

 ――少しばかり理不尽だが、自分が脅かされる事も無く安寧に、研究を続けられているのも、王子達が真実を言わないお陰でもある。

 扉の前で、崩れるようにしていた男の頬を伝っているのが涙だと知っているのは、ラストーリャのみ。
 だったのだが。

「初恋! シェイルが恋煩い!!」

 面白いものを見つけた、とディエルは頬を高潮させた。

「そうか、あいつも卒業か。いや、本当の意味で大人になったのだな――なに? そのような間違いは起こらなかっただと? 据え膳食わぬは騎士の風上にも置けないじゃないか!」

「と言うか、僕、気がついちゃったんだけどさ……なんでシェイルばっかり、美味しい思いしているのかなトゥーリャ」

「確かに、私たちとの扱いにかなりの差があるな……」

「年上の女性とのめくるめく二昼夜」

「揺れる感情」

「触れ合う体温」

「欲望をおさえこむ葛藤」

「予測される残酷な結末」

「そして、涙の別離」

「…………」

「…………」

「「次の扉は、もっと正確な座標を刻めるよう、励むように」」



 結局、煩悶と剣を日々振るい続けるばかりである弟の初恋が、決して実らぬ事を知る長兄は寛大な心を持って、自らに皇太子と云う名の枷をかける。

 第三王子は、この機会に、長兄と次兄を裏方から支えると宣言し、政治の表舞台から消える為、隠居先を正式に聖王庁聖王院へ正式に定めた。

 余談だが、第二王子が寝込んでいたのは、流感ではなく淫魔に魅入られ精気を吸い取られてしまったからだ、と王城内で実しやかに囁かれ始めたのは、第一王子が立太子した翌日からである。

 噂の出どころは、誰も知らない。

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