花屋のガーデニング委員会!
6.こわくて有名? 桐生生徒会長!
翌朝。空くんはスッカリ元気になった。私の手も、薬のおかげで順調に回復している。
「これなら今日ガーデニング出来るね!」
空くんのおかげでキレイになった制服へ着替える。そして和室へ飛び込んだ。同時に「ご飯よー」と呼ばれたので、昨日と同じく四月号を手に取りキッチンへ行く。既に空くんが座っていて、トーストを頬張っていた。
「空くん、もう一枚トーストどう?」
「いただきます」
しかも二枚目! 遅れをとらないよう、急いで空くんの隣へ座る。片手にトースト、片手に四月号。パン粉が落ちないように、慎重に雑誌へ目を通す。学校から帰ってすぐ作業したいから、いま読んでおかないとね。
「こら」
ひょいと私から雑誌をとるお母さん。う、目が怒っている。
「ご飯に集中して食べなさい」
「ごめんなさい……」
素直に謝る私を見て、空くんが「ぷっ」と吹き出す。恥ずかしい所を見られちゃった。
「そういえば今日は委員会を決める日なんだって? 空くんが教えてくれたわよ」
「あ、そうだった」
お母さんは「何に入るの?」と興味ありげに私たちを交互に見る。
「俺は入学したばかりだからパスですね」
「私も何もしたくないなぁ。庭のガーデニングに集中したいし」
「もう~一言目には〝ガーデニング〟って。おじいちゃんみたいなことを言うんだから。学校にも〝そういう委員会〟があるんじゃない?」
「え?」
「お母さんの頃には〝美化委員〟って名前だったわ。家のガーデニングは私たち家族しか見ないけど、学校のガーデニングはたくさんの人が見るでしょ? やりがいありそう」
「そういう風に考えたこと、一度もなかったなぁ」
ガーデニングをやってみたいと思ってはいるけど、詳しいわけじゃない。もっと勉強して自信をつけた後なら、学校のガーデニングをやってみたいかも。
「ごちそうさま」
「俺も、ご馳走様でした」
「はーい、気を付けていってらっしゃい」
その後、身支度を終えた私たち。そう言えば私たち、二人そろって登校するの?
「心春、どうした?」
「えっと」
先に靴を履き、玄関扉を開けた空くん。私を見て、きょとんとしている。空くんは、私と登校する気なんだ。当たり前か、一緒に住んでいるもんね。昨日は遅刻ギリギリだったし、縦に並んで走ったから誰にもバレなかったけど……。もしも空くんと一緒に登校している所を見られたら、皆からなんて思われるかな? それに一緒に住んでいることがバレたら――
「……あ~、悪い。心春」
どうしようか悩んでいると、空くんが何かを大きな声を出した。
「俺、サッカー部の朝練を見に来るよう言われていたんだった。だから先に行くな」
バタン
……行っちゃった。閉まった扉を見つめていると、リビングからお母さんが顔を出す。
「〝一緒に行けなくて残念〟って顔ね?」
「そ、そんなことないよっ」
変な誤解を生まないよう、必死に説明する。
「私とイケメン空くんが一緒に登校している所を見られたら、学校で大騒ぎになっちゃう。だからこれで良かったの」
ブラシに歯磨き粉をにゅるっと出しながら、お母さんは「ふぅん」と呟く。
「でもこの家から空くんが出て来た所を見られたら、どのみち一緒に住んでいることがバレるわよ? それなら早いうちに腹をくくった方が心春のためよ」
その可能性をスッカリ忘れていた。まさか家と学校の近さが裏目に出るなんて。
「もしも私と噂になったら、空くん嫌だろうなぁ」
空くんは人気者なだけに申し訳ないよ……。
するとお母さんが、私の肩に優しく手を置く。
「心春は? もし空くんと噂になったら嫌なの?」
私? 空くんと噂されたら自分がどう思うかなんて、考えたことなかった。ふと、ポピーの花言葉を思い出す。庭で二人、抱きしめ合ったことも。抱きしめられた時、私はどう思った? 空くんを近くに感じて、何を思った? 嫌じゃなかった。むしろ空くんだから安心した。それ以上にドキドキしたけど。
「私は噂になっても別に。ただ空くんに迷惑がかかるなって、それを心配して……」
「ふふ、ならいいじゃない」
私の頭をゆるりとなでて、お母さんがリビングへ戻っていく。
「空くんの心配ならしなくていいわよ。だって空くん、心春と登校したそうだったもん」
「え!」
「気づかなかった?」と言いながら、お母さんは奥へ引っ込んだ。直後シャコシャコと歯を磨く音が、テンポよく私の耳に入る。その音に呼応するように、私の心臓も跳ねていく。
「あ~、う~」
まだ外に出てないのに全身から汗が出る。恥ずかしさと照れくささに耐えながら、一気に学校へ向かった。だけど学校が近づくにつれ、疑問を覚える。
「サッカー部、朝練していないよね?」
でも空くんは「サッカー部の朝練を見に行く」って言ったよね? 曜日を間違えたのかな? あのしっかり者の空くんが?
首をひねっていると、校門が見えて来た。門の両サイドにプランターが置いてあるけど、枯れかけた花がダランと下を向き、今にも茎が折れそうだ。あ、土が乾燥している。
「この日差しだもん、たくさん水がほしいよね」
もっとキレイに、もっと長く咲きたいだろうな。もしも私が花だったら、ひまわりみたいに上を向いて、登校する皆の顔を見たいよ。
「このプランター、もう空くんも見ちゃったかな?」
自分と同じ植物がこんな扱いを受けて居たら、悲しい気持ちになっちゃうよ。空くんのためにも、少しでもお花が元気になりますように。校門をくぐる際、プランターに目をやる。歩きながらだから途中までしか見えなかったけど「ガーデ」の文字が見えた。
「花の名前かな? それともお世話をしている人の名前?」
考えていると、後ろから「心春!」と元気な声が響く。
「あ、麻衣ちゃん」
挙げた手を左右に振った、その時だった。
ドンッ
「わ、ごめんなさい」
「いえ。ですが今後は気を付けてください」
その人は背が高くて、黒い眼鏡をかけていた。空くんよりも目が鋭くて短髪だ。
「俺の顔に、何かついていますか?」
「い、いえ。何も!」
「それなら不必要に見ないでください。不快です」
ふ、不快⁉ ショックを受ける私を一瞥し、男の人は「では」と下駄箱へ向かう。
今の一部始終を見ていた麻衣ちゃんが、同情して私の背中を叩く。
「あの人は二年生の桐生真(きりゅうまこと)先輩だよ。二年生、生徒会長!」
「せ、生徒会長? あんなに怖そうな人が……?」
麻衣ちゃんが言うには、桐生先輩は厳しいことで有名らしい。頭が回るし作業も早いから、生徒会の仕事をほぼ一人でこなしているんだって。だから学校のアレコレに詳しいらしい。噂では、先生たちも頭が上がらないとか。
「実質、この学校で一番権力を持っている人だから近寄らない方がいいよ」
「うぅ、あと三分早く聞きたかった……」
次に先輩の顔を見たら、全力ダッシュで逃げよう! すると予鈴のチャイムが鳴り、私たちは教室へ一目散。入ると、ほとんどの生徒が登校していた。もちろん空くんも。
「遅かったな」
後ろのドアから入った際、本人から話しかけられた。安定の、への字の口だ。もしかして心配してくれたのかな? 窓から風が入り、空くんの栗色の髪がふわりと揺れる。さっきの桐生先輩とは違う、柔らかい髪質だ。
「心春、どうかしたか?」
「ううん。それより空くん、サッカー部は朝練していなかったよ。曜日を間違えたの?」
「!」
周りに誰もいないことを確認しながら、気になっていたことを話す。空くんは面食らった顔をした後、気まずそうに私から視線をそらした。
「だって心春が俺と一緒に行きたくなさそうだったから」
「え、そんなことで?」
「〝そんなこと〟って何だよ。玄関で深刻な顔をしていたくせに」
むすっとした顔で、机に肘をつく空くん。ふてくされた態度に、キュッと胸がしまった。申し訳ないと同時に、なんだか可愛く思える。
「ふふ……」
思わず笑うと、ギロリと空くんから睨まれる。私はお母さんから言われた「腹をくくりなさい」って言葉を思い出し、素直に謝った。
「〝忘れ物した〟なんて嘘ついてごめんなさい。明日からは一緒に行こう?」
「でも」と言いかけた空くんに、「いいの」とほほ笑む。
「私が空くんと一緒に行きたいんだもん」
皆に噂されることよりも、空くんを傷つける方が嫌だって分かった。「サッカー部の朝練を見に行く」なんて。わざわざ空くんにウソをつかせてまで、別々に登校したくない。それに、せっかくこうして一緒にいられるんだしね。
昨日、消えかけた空くんを思い出す。あの時の恐怖を思ったら、皆に噂されるなんてちっぽけなことだ。それに関係を聞かれたら「遠縁」って答えればいいんだし。私は空くんとの時間を大事にしたい。
「だから一緒に行こう。ね?」
「わ、分かったよ……」
カッと顔を赤くした空くんが、本物のバラの花に見える。そう言えば、空くんからはバラの匂いがするんだっけ? 気になって空くんに近寄ろうとした。だけど……
「す、ストップ!」
ベシッ
手の平で押し返される。瞬間、グキッと変な音が!
「いっ!」
「わ、悪い。大丈夫か?」
「大丈夫」と、首に手をあてながら空くんから離れる。匂いはしなかったな。すると空くんは赤い顔のまま、こんな提案をした。
「じゃ、じゃあ今日から一緒に帰るか? どうせ一緒の家なんだし」
まさか誘ってくれるなんて! 驚いていると「嫌ならいい」と口を尖らせる空くん。
「嫌じゃないよ。一緒に帰ろう!」
「ん、決まりだな」
ニッと笑った空くんの笑顔が、花が咲いたみたいに満開だ。すごく嬉しそうに見えるのは、きっと気のせいじゃない。