花屋のガーデニング委員会!
8.学校イチの不良登場、日向くん!
その日の放課後、さっそく各委員会があると言われ――現在めちゃくちゃ狭い多目的室に来ている。各クラスから一名×三学年分=合計十二人。のはずが、一人欠席で十一人。その全員が、小さなお部屋にギュッと膝を合わせて集まっている。
「え~と、僕が委員長をできるか不安ですが、三年生なので頑張ります。三年連続ガーデニング委員をしているサカキです。よろしくお願いします」
まるでウサギのようにフワフワしたオーラ。物腰が柔らかそうな人で良かった。
あれ? でも、こんなに優しそうな人が、花を枯らせる……なんてことある? プランターの枯れかけた花に、サカキ先輩なら気づきそうだけど……。
不思議に思いながら、続けて先輩の話を聞く。
「誰よりもガーデニング委員会を知っている身として、一言だけ言わせていただきます」
サカキ先輩は、スゥと息を吸って一言。
「ウチは、全く予算がありません」
衝撃的なことを言った。
「よ、予算がない?」
誰かが質問すると、サカキ先輩は指を折りながら他の委員会の名を口にした。
「風紀委員、生活委員、保健委員、体育委員、文化委員、図書委員、放送委員、環境委員、選挙委員、そしてガーデニング委員。わかるかな? 一番〝華がない〟のが、我らガーデニング委員なんだ」
「「「!」」」
ハッとした顔の私たちに、サカキ先輩が深刻な顔で頷く。
「残念ながら、僕たちは弱小委員だ」
「まさか、この小さな教室が委員会の場所として割り当てられたのも……」
恐る恐る一年生が質問すると、サカキ先輩がまたもや深刻な顔で頷いた。
「広い教室ほど人気だからね。余りものを賜った、というわけだよ。予算にしてもそう。ガーデニングはさほど学校の役に立たないと思われている分、予算が乏しい。本当はもっと花を植えたいし、肥料を買いたいけどね」
サカキ先輩が悲しげに笑った時、ピンと来た。
「じゃあプランターの花が枯れかけているのって……」
ボソリと呟いた私を、サカキ先輩が見る。
「予算不足で、あれ以上のことをしてやれない。もちろん、もっと元気に咲いてほしいのが願いだ。だけど生徒会長が厳しくてね、予算を増やしてもらえないんだ」
「そんな……!」
詳しく聞くと、花を買った時点で予算は尽き、後は水やりしか出来ないらしい。肥料がないんじゃ、花は元気にならないよ! 昨日得たにわか知識だけど……。
「なんとかならないのー? 校門に咲く花がキレイだと元気が出るけど、枯れた花はテンション下がっちゃうって」
三年生が言うと、サカキ先輩は腕を組んだ。眉を下げてうなっている。
「僕も一年の時は抗議しようと思ったんだ。実際に抗議したし、わずかに予算も増えた。だけど桐生くんが生徒会長になってからは、さっぱりなんだよ」
桐生? どこかで聞いたような……。ふと朝の光景が蘇る。麻衣ちゃんに手を振った時に、ぶつかっちゃった人だ! あの怖い顔の先輩! 私に「不快」って言った人! あの時のショックを思い出して気分が下がる。確かにあの人、すごく怖かった。人に「不快」というくらいだから、花のことなんか考えてないのかもしれない。
皆そろってズーンと暗くなる。
パンパン
空気を変えようと、サカキ先輩が手を叩いた。
「僕らは予算の範囲内で、何が出来るか考えよう。正式な予算発表は一週間後。それまではこの担当表に沿って、交代で水やりを行います。というわけで、最初の委員会は終わり。みんな気を付けて帰ってね~」
紙を手にした人から多目的室を後にする。私も帰ろうとした時、ガーデニング委員副会長の小枝先輩(背が小さな黒髪ボブの可愛い先輩)とサカキ先輩の話し声が聞こえた。
「情けないスタートだったけど、何もしていないワケじゃないんでしょ?」
「一応、桐生くんに掛け合ってはいるけどね。やっぱり厳しいかも」
弱音を吐くサカキ先輩を、小枝先輩が肘でちょんと小突く。
「正式に予算が決まる一週後まで粘れる。頑張んなさいよ」
「そういう小枝さんこそ援護してよ~。僕だけじゃ不安で」
「そこは委員長がしっかりなさいよ」
「うぅ、スパルタ~」
今の話……サカキ先輩たちは、まだ諦めてないってこと? 怖くても、桐生先輩に掛け合ってくれているんだ! それを聞いて嬉しくなった。この学校を、花でいっぱいに出来るかも! せっかく入った委員会だもん。私も簡単に諦めたくないよ!
「一つ聞いてもいいですか?」
急に話し掛けちゃったけど、二人はそろって「ん?」と優しい目で私を見る。
「私からも、桐生先輩に掛け合ってみていいですか?」
「「え」」
あの桐生くんに?って顔だ。内心、私もドキドキ。だって桐生先輩怖いもん。でもプランターの花に罪はない。できることなら守ってあげたい。
「ダメ元ですが、予算をあげて貰えるよう頼んでみます」
「その気持ちは嬉しいけど、無理はしないでね? あ、良ければ僕と一緒に行く? 一人より二人のほうが、」
「ありがとうございます、それでは失礼します!」
勇気を出して聞いて良かった! 一つ目の壁を乗り越えたようでワクワクする。二人の先輩にお辞儀をして、カバンを取りに自分の教室へ戻った。
ガラッ
「あれ、空くん?」
教室の後ろのドアを開けると、なんと空くんがいた。明日までの課題を解いている。
「よ。委員会、もう終わったのか?」
「終わったけど……まさか待っていてくれたの?」
朝「今日一緒に帰ろう」と約束したことを思い出す。でも委員会が入ったから、放課後「先に帰っていいからね」と伝えたの。空くんは「先に帰ろうと思ったけど」と、シャーペンを動かす手を止める。
「でもせっかく約束したし。俺が待っていたかったんだ」
「!」
栗色の瞳を細め、ニッと笑う空くん。私は自分の心臓が握られたみたいに、少しだけ苦しくなった。胸がドキドキしている。顔、赤くなっていないかな?
「あの、えっと……あ、ありがとう」
「ん」
学校から家まで近いのに、そもそも同じ家に住んでいるのに。それでも空くんは、私と一緒に帰る時間を大切にしてくれたんだ。
「……へへ」
心がホカホカと温かい。空くんが現れてから、こんな気持ちになることが増えたな。
「……ん?」
窓から校門が見える。例のプランターの近くに、一人の男子が立っていた。
「あの子、何をしているんだろう?」
興味本位で見つめていると、男子は手を伸ばして花を掴む。そして勢いよく、ズボッと土から引き抜いてしまった!
「えぇ⁉」
抜いちゃダメだよ! お花が死んじゃうじゃん! カバンもノートも全部置いて、教室を飛び出す。「心春⁉」と空くんが叫んだけど、止まれない。「助けてあげなきゃ」って思いが強くて、ダッシュで校門を目指した。
「あ、あの!」
下駄箱を抜け、勢いよく男子の前に飛び出す。すると男子はプランターへ背中を丸めたまま、顔だけを私に寄こした。
「゛あぁ?」
「ひッ!」
勢いよく飛び出した、はいいものの……。男子は肩まで伸びた銀色の髪。両耳には複数のピアスがついている。もしかしてこの男子、不良⁉
「なんだよ、アンタ」
「え、えっと、その……お、お花を……」
「あ? 聞こえねぇよ」
「ひぃ……っ」
ピシッと岩みたいに固まった私に向き直り、丸めた背を伸ばす不良くん。さっきまで猫背だったから分からなかったけど、この男子かなり背が高い! ややロングの銀髪、複数のピアス、長身。とんでもない人に声をかけてしまったと、早まった行動に後悔した。
その時だった。
「そこで何をしているんです」
私の背後から、聞き知った声が聞こえた。この体の芯にずっしりと響く低音、もしかして! おそるおそる振り返ると、メガネをかけた短髪の男子。ガーデニング委員会で全メンバーから恐れられた、生徒会長の桐生先輩だ!
「まさかケンカですか?」
桐生先輩は、ギロリと私を睨む。私は震えながら、なんとか要件を伝えた。
「ち、違います! ただ私は、花を……」
「花? 花とは、彼が今もっている花ですか?」
頷くと、不良くんが「これかよ?」と顔の高さまで花を持ち上げる。
「か、勝手に抜かないでください……花が死んじゃう……っ」
一歩ずつ後ずさりしながら、不良くんに伝える。すると背中に何かの感触が当たる。振り向くと、真後ろに桐生先輩!
「ひ! す、すみません……!」
「……」
先輩は何も言わない。その代わりに口を開いたのは、あの不良くんだった。
「抜いたらダメなのか。小学校で朝顔を育てた時〝間引きすればいい〟って習ったけど」
「え……」
不良くんはプランターの土を掘り返して、花を埋め直す。〝まさかの行動〟にビックリ。この人、花をいじめていたワケじゃないんだ。すると一部始終を見ていた桐生先輩が、私と不良くんの間に割って入る。
「あなたはガーデニング委員ですよね? 委員会、ちゃんと出席したんですか?」
「いや、昼寝してたら遅れた」
え、ガーデニング委員会に入った? この不良くん、私と同じ委員会なの⁉ そういえば一人だけ欠席だった。あの欠席者が、この不良くんだったんだ。
「昼寝……学校で昼寝なんて言語道断。それに年上には敬語を使いなさい」
「お前もな。俺より年上なら、俺に敬語で喋るなよ」
「俺の話し方は癖だからいいんです」
「んだよ。ただの屁理屈じゃねーか」
……ちょ、ちょっと!すごい速さで険悪な雰囲気になっているよ!
するとナイスタイミングで、
「心春!」
と私を呼ぶ声が聞こえる。空くんだ!
桐生先輩と不良くんを交互に見た後、空くんはぶにゅっと私の頬をつかんだ。
「いたッ」
「いきなり出て行くからビックリしたぞ。それに、この状況は一体なんだよ」
そんなの私が聞きたいよ! 答えに困っていると、不良くんが私たちに背を向ける。
「めんどくせ。俺いくわ」
だけど数歩あるいたところで、チラリと私へ振り返る。
「花、勝手に抜いて悪かったな」
「え……」
不良くんが謝ってくれた。確かに花を抜いたのはいけなかったけど、でも「良かれ」と思ってだもんね。花を考えてやったことだもん。不良くんは悪くないよ。
「ひ、肥料!」
「あ?」
「肥料をあげればいいの! そうすればお花を抜かなくても元気になるから」
「! へぇ、そーなんだ」
不良くんは目を丸めて私を見た。そしてニッと口角を上げる。
「俺、日向壱弥(ひゅうがいちや)。アンタの名前は?」
「私? 花屋心春。一緒のガーデニング委員だよ」
「じゃあ次からは絶対に寝坊せずに行くわ。またな、心春」
「ま、またね……?」
平和な自己紹介が終わると、隣から大きなため息。空くんだ。
「空くん、どうしたの?」
「……別に」
ムッとした顔をしながら「何でもない」って……説得力ないよ。すると桐生先輩が「俺もこれで」と離れていく。私は、思わずその腕を掴んだ!
「ひ、肥料!」
「なんです? 腕を離してください。制服がシワに、」
「肥料を……っ」
「……」
桐生先輩のメガネがキラリと光る。その時、夕日に反射した頬が赤く染まって見えた。でも絶対に気のせいだ。だって桐生先輩の威圧感すごいんだもん! 口から煙が出てきそうだよ!
すっかり怯えた私は、何も言えなくなった。あぁ、こんなんじゃ予算上げなんて、夢のまた夢だよ!もうダメかも……と諦めかけた時だった。
「花は肥料がないと元気に咲きません。そのために予算を上げてください。今のままでは、プランターに咲いた花があまりにもかわいそうですよ」
「そ、空くん……」
私の言葉を代弁してくれた空くん。同時に、先輩の腕を握っていた私の手を、手刀でスパッと切り落とす!
「わ! ビックリした!」
「悪い、虫がついてた」
笑いながら、ジロリと桐生先輩を見る空くん。先輩もメガネの奥から、鋭く空くんを見返していた。えっと、何が起きているの? それにしても、さすが空くん。やっぱり校門の花に気付いていたんだ! すると桐生先輩が先に視線をそらす。
「予算については、日を改めてガーデニング委員長と話をします。と言っても、上履きのまま外へ出るような人が所属する委員会を応援したくはありませんがね」
「ぎゃ!」
足元を見ると、本当に上履きのまま! そうだ、早く日向くんの所へ行かなくちゃと思って、靴に履き替えるのを忘れていたよ!
「それを言いにきてくれたんですね。ありがとうございます、桐生先輩」
すると先輩は「違います」と、黒い眼鏡のブリッジを持ち上げながら答えた。
「あなたが男子生徒に突っかかっていくから、心配で見に来たんですよ」
「〝心配〟?」
「女性のあなたにケガがあったらいけませんし」
「!」
私に声をかけた時、そんなことを思ってくれていたんだ。怖い人と思っていたけど、どうやら違うみたい。
「さすがは生徒会長。学校みんなのことを考える、スゴイ人なんですね!」
「「……はー」」
本音を言ったのに桐生先輩と、なぜか空くんにまでため息を吐かれた。不思議に思っていると、桐生先輩が「しかし」と顎に手を添える。
「人への活動に予算を使うか、花へ予算を使うか。悩みどころですね」
「というと?」
「体育祭と文化祭を盛り上げたいという要望が、各委員会から強いんです。俺としても、生徒が楽しんで学校を盛り上げるのはいいことだと思いますし。だから予算の大半は、学校行事に振っているんですよ」
「なるほど……」
私もイベントを楽しんでいる一人だ。限られている予算を〝皆が納得できるように割り振る〟って難しいことなんだね。すると空くんが「でも」と先輩を見る。
「だからって、せっかく植えた花を何もしないまま枯らす、っていうのはナシでしょう。肥料を与えないと、近いうち全部が枯れますよ」
すると桐生先輩は「分かっています」と渋い顔から一転。きりりと眉を上げる。
「だからガーデニング委員長と〝話し合う〟と言っているんです。しかしどれほどの予算になるかは、サカキ先輩の熱量次第ですよ。あなたぐらいあれば別ですが。負け越しで俺に挑んでも、予算は増えないと思ってください」
「〝あなたくらい〟って、私?」
答えないまま桐生先輩は「じゃあ俺はこれで」と下駄箱へ行く。もう遅い時間なのに校舎へ戻るらしい。「忙しい人だな」と呟いた空くんと一緒に、先輩の背中を眺める。
「生徒会長って、大変な仕事なんだね。」
さっき何度もため息をついていたし、疲れているはず……あ、そうだ!
「桐生先輩!」
「おわ!」
空くんの手を引いて、桐生先輩のそばへ寄る。先輩は怪訝な顔をして、私と空くんの繋がった手を見た。
「……何ですか」
「先輩、匂いをかいでみてください」
「は?」
「知っていますか? バラの匂いは、リラックス効果があるんですよッ」
「かいでみてくださいって……」
眉を八の字にして、桐生先輩はたじろいだ。だけど「分かりました」と、私へ顔を近づけた。……え、私⁉
「ば……っか! 違う、コッチだ!」
グイッ
空くんが、桐生先輩を自分の方へ引っ張る。すると先輩はグインと顔の向きを変え、私ではなく空くんの首元を嗅いだ。
「……なるほど」
クンッと匂いをかいだら、すぐに離れていく。
すると桐生先輩も空くんも同時に「は~」とため息をついた。
「確かにバラの匂いがしますが、余計に疲れました」
「俺もだ……心春、もう帰るぞ」
「え?」
私、なにかしちゃった……? よく分からない空気のまま、私たちはそれぞれ下駄箱へ向かう。カバンをとりに教室へ行こうとすると、「もう持って来た」と空くん。
「いきなり走っていくからビックリしたぞ。やっと追いついたと思ったら、心春はガラの悪そうな奴らの真ん中にいるし。心臓が止まるかと思った」
「そんなに? 大げさだよ」
「心春は花のことになると見境なくなるって、〝俺が〟いい勉強になったよ」
「う……」
そんなに心配させちゃったのかな。そうだとしたら申し訳ない。次からは気をつけようと反省していると、大きな手が優しく頭に乗る。横を見ると、空くんが切れ長の瞳を細めて笑っていた。
「それよりガーデニング委員就任おめでとう。ちゃんとキントレ先生に言えたな」
「空くんが応援してくれたからだよっ」
「いや、頑張ったのは心春だ」
ぐしゃりと頭をなでられる。頑張ったご褒美みたいで嬉しい。こらえきれなくて、へへって声に出して笑ってしまった。
「私、ガーデニングのことを勉強する。お家と学校を、お花でいっぱいにする。その光景を、いつかおばあちゃんに見せてあげるんだ。それが今の目標!」
「心春が育てた花を見たら、ばあさん一気に元気になるだろうな」
「そうだといいな!」
「元気になる」って言葉が嬉しくて胸が躍る。優しい顔をしていた空くん。
だけど「それより」と、打って変わって顔をしかめた。
「さっきの〝桐生先輩〟だっけ? その人に俺の匂いを嗅がせるのやめろ。もし俺が元バラだってバレたらどうするんだ」
「あぁ! 本当だ……ごめんね空くん」
空くんは「まぁいいけど」と半ば呆れながら、自分の腕の匂いを嗅ぐ。
「というか心春は、俺からバラの匂いがするって気づいていたのか? 匂いに慣れ過ぎて、気づいていないと思ったけど」
「麻衣ちゃんが言っていたの。空くんはイイ匂いがするって。他の皆も気づいているみたいだよ」
「げ、そうなのか。姿や形は人間になれても、匂いは隠せないんだな」
そうだよね……元は空くんバラなんだ。私ってば、一瞬だけ忘れていた。だってあまりにも空くんが、この世界に馴染んでいるから――
「なんだか、空くんのことを元バラって思えないなぁ」
「え?」
「もう〝一人の男の子〟としか空くんのことを見られないよ」
「!」
空くんと出会って、もう何度も助けてもらった。私、空くんになら本当の気持ちを打ち明けられるんだよね。それってすごく幸せな事だと思う。
「空くん、いつもありがとうね」
感謝を伝えると、空くんの耳がほんのり赤くなる。モゴモゴと口にするのは、こんなこと。
「心春が〝俺を男として見ている〟なんていうから」
「え? ……あ!」
言われてみれば、さっきの言葉ってまるで告白じゃん! わぁ~! 私ったら、なんてことを言っちゃったの!
「違うの、空くん! さっきの言葉に深い意味はなくて! 空くんが〝元バラ〟ってちゃんと分かっているから大丈夫だよ!」
「!」
その時、空くんの時間だけが止まったようにピタリと動かなくなる。そうかと思えば、自分の手を握ったり開いたりと、動かし始めた。
「空くん、どうしたの?」
「いや、なんでもない」
「本当?」
「本当だ」
もしかして、また消えかかっていたりするのかな? 不安になって空くんの周りをグルグル回る。だけどバッチリ姿形があって、ホッと一安心。そんな私の心配を察したのか、空くんは「ぶっ」と吹き出した。
「そんなに心配しなくても大丈夫だっての。心春は心配性だな」
「う……」
それくらい昨日の光景は衝撃だったんだもん。空くんの体が透けるなんてさ。思い出してひんやりした心に蓋をするように、ガーデニングの話をする。
「庭に種を蒔こうと思うんだ。あ、その前に水やりかな? それにね、学校に植物の図鑑があったんだよ。今度貸りて帰るから一緒に見ようね! あとはね」
「おい……」
まるで壊れた人形みたいに喋る私を見て、空くんは呆気に取られた。だけど「ブハッ」と、髪が揺れるくらい大きく吹き出す。
「分かったから落ち着け」
「う~……はい」
全身が熱い。きっと顔は真っ赤だ。穴があったら入りたいと思っていると、空くんが私の背中をポンと叩く。その顔に浮かぶのは、なぜかちょっと悲しそうな笑み。
「ちゃんと〝弁えなきゃいけない〟と思っているから、大丈夫だ」
「え?」
弁えるって、なに? その時、春の風が私たちの間を通る。空くんの栗色の髪が夕日のオレンジ色に染まって、とてもキレイだ。すると空くんも、風に乗る私の髪を見つめた。
「キレイだな」
「え!」
さらに顔を赤くした私を見て、空くんがハッとして自分の口を押さえる。
「……何でもない。ほら家に着いた、入るぞ」
「う、うんっ」
ギクシャク
まるでロボットみたいに行進しながら、私は玄関へ入る。昨日の二の舞にならないよう私服に着替えて、再び庭へ集合した。