花屋のガーデニング委員会!
9.私がお姫様⁉


翌日。登校しながら、私は腰をトントンと叩いていた。

「あー、種まきも結構な重労働だったよ~」
「そうか? 余裕だったろ」

私と同じ作業をしたにも関わらず、スッと背中を伸ばして姿勢よく歩く空くん。
腰が鉄で出来ているのかな? すごすぎるよ……!

昨日、学校から帰った私たちは庭で種まきを行った。和室にあった種から選んだ花の種類は、ガーベラとマリーゴールド、そしてバラ。空くんが希望していたポピーの種はあったけど、種うえの時期は秋。もう少し先だね、と話しながら計五種類の種まきを行った。
いつ花が咲くかなぁ~とワクワクしながら種をまいたけど、作業は全て中腰。しかも花壇が大きいから、全ての種を植える頃には背中と腰がコンクリートで固まったみたいにカチコチになった。

「昨日も夜まで作業したのに全く体に響かないなんて。さすが空くんだよ。やっぱ空くんは元バラなだけあるね。すごいよ!」
「……そうだな」

空くんは視線を下げて、目の前に転がる石ころを蹴った。何を思っているんだろう? 分かりたくて、にゅっと空くんを覗き見る。

「ねぇ空くん、何か悩んでいる?」
「え」
「私、何でも聞く。私ね、空くんにたくさん自分の気持ちを聞いてもらって、スゴク救われたんだ。だから私も、空くんが困っているなら力になりたい」
「心春……」

驚いたように目を開いた空くんは、ふっと肩の力を抜く。

「気持ちだけもらっとく。もしも悩みが出来たら、ちゃんと言うから」
「本当?」
「ウソついてどうするんだよ」
「じゃあ約束ねっ」

スッと小指を伸ばす。空くんも「仕方ないな」って顔で、小指を出してくれた。
ギュッ

「指きった! 約束を破ったら、針千本だからねっ」
「おー怖い怖い」

ケラケラと笑う空くんが新鮮で、私も口を開けて笑う。すると私たちの周りで、小さな話し声が聞こえた。不思議に思って辺りを見回すと……

なんと同じ学校の生徒たちが、穴が開くほど私たちを見ている! 今が登校中だってこと忘れていた! あれほど昨日は警戒したのに、「皆にバレてもいいや」と思ったら、一気に気が抜けちゃったよ!

繋いでいた手を勢いよく放す。私の考えが分かったのか、空くんは「今さらだろ」とまた笑った。

「別に仲良くしてもいいだろ? じいさんの遠縁ってことで、改めて皆に説明すればいいんだし」
「そうだけど……でも空くんは人気者だし、私だけが独占しちゃダメっていうか」
「なんだそれ」

ちょうど校門に到着する。昨日、日向くんが埋め直した花が元気ないまま下を向いていた。早く肥料をあげたいな。

「ウチの肥料を持って来ちゃダメなのかな?」
「それじゃ根本的な解決にならないだろ。ずっと学校に肥料をやるわけにもいかないし」

空くんのもっともな意見に頷く。やっぱり予算を上げてもらうしかないんだ。桐生先輩が、サカキ先輩と話をするって言っていた。何が何でもサカキ先輩に頑張ってもらわないと! ガーデニング委員会の命運がかかっているんだから!

「ねぇ空くん、お昼休みにさ」

サカキ先輩の所についてきてくれない?とお願いしようとした、その時だった。

「ちょっと心春~!」

下駄箱に到着した瞬間、後ろからドシンと強い衝撃が加わる。危うく下駄箱に激突しそうになった私を、空くんがしっかりと抱き留めてくれた。

「いたた」
「大丈夫か、心春」
「うん、ありがとう」

いったい誰がこんなことを――振り返ると、まるで神様にお祈りをささげるみたいに指を組む麻衣ちゃんがいた。キラキラした瞳で、私と空くんを見ている。

「やっぱり噂は本当だったんだね!」
「「噂?」」

私と空くんが、コテンと頭を倒す。すると麻衣ちゃんは早口で説明してくれた。

「心春が、いま学校で何て呼ばれているか知っている? 姫よ! 姫!」
「ひ、姫ぇ?」

なんでそんなことに⁉ 驚きすぎて口をパクパクする私に、麻衣ちゃんが続ける。

「昨日の放課後、この学校で狂犬と呼ばれる桐生生徒会長と不良の日向くんを、両隣に侍らせたんでしょ⁉」
「え⁉」

は、侍らせる⁉ とんでもワードを聞いて、ひっくり返りそうになる。空くんは「あぁ」と、苦虫を嚙み潰した顔をした。

「確かに、狂犬二人組だな」
「ケンカが強くて恐れられている、だけどカッコイイ日向くん!

厳しくて怖い、だけど見目麗しい桐生先輩!
そんな二人を従えた心春のことを、みんなが〝姫〟って呼んでいるよ!」

「な、なんでそうなるの⁉」

周りを見ると、確かに皆、私から一歩引いている。しかも、こんなコソコソ話まで。

「昨日は桐生生徒会長と日向くん。そして今日は薔薇園くん。やっぱり花屋さん、タダモノじゃないわ!」
「ち、違うんです!」

声を荒げると、噂していた人たちは風をまき上げながら逃げて行った。
どうしよう、完璧に恐れられているよ!

「有名人だな、心春」
「私も友達として鼻が高いよ!」
「そんなこと言ってないで助けてよ~」

半泣きの私を置いて、空くんと麻衣ちゃんが先に行ってしまう。

「あぁ、待ってぇ!」

モタモタしていると、後ろからポンと肩を叩かれる。まさか救世主⁉

「おはよう花屋さん。噂は聞いたわよ。
昨日言った通り、私ってそういう話が大好きだから詳しく聞かせてほしいわ」
「は、長谷川さん……」

救世主ではなく、恋バナが大好きな長谷川さんに見つかっちゃった!

「どうしてあの狂犬二人と一緒になったのかしら。そこから詳しく聞かせて?」
「う~勘弁してくださいぃ……」

私は半泣きになりながら、長谷川さんから質問攻めにあう。それは教室に着くまで、長く長く続いた。
 
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