花屋のガーデニング委員会!
12.おばあちゃんとの約束

家に帰って、さっそく私服に着替える。まだ空くんは部屋にいるみたい。私は一足早く庭へ行き、花壇の状態を見た。

「昨日植えたばかりだから、まだ変化がないよね~」

今日も水をまくため、ホースの用意をする。昨日空くんに教えてもらったから、どこに水道の蛇口があって、どうひねればいいかすぐ分かる。

「確か、ここがこうで……出た、うわぁ!」

ホースから出る水の勢いを調整しきれなくて、手からホースが離れてしまう。すると、まるで暴れ馬になったかのように、ノズルが土の上を飛び跳ねた。おかげで服はビチャビチャ! 家にまで水がかからないよう、急いでホースをつかまえる。

「は~、全身濡れちゃった……」

蛇口をひねりすぎちゃった。私はずぶ濡れだけど、花壇は無事。二の舞にならないよう、慎重に調整しよう。せっかく植えた種が抉り出されないよう、優しく散水できるレベルまで水の勢いを落とした。うん、良い感じ!

「早く芽が出ますように」

そう願った時だった。

『心春』

ふと気こえた声。これは……

「おじいちゃん?」

私の後ろから聞こえた気がする。蛇口を閉めた後、声を頼りに歩く。そして花壇の端までやって来た。だけど、もう声は聞こえない。

「聞き間違い、か。そりゃそうだよね。だっておじいちゃんは……」

おじいちゃんはもういないのだから――と寂しさで視線を下げる。そして発見した。一面土に覆われた花壇の中。ポツンと生まれた小さな緑を。

「これ……芽だ‼」

もう芽が出たよ! やった、空くんに報告しなきゃ! ホースを放り投げて家へ入る。濡れた服のまま、靴も揃えず廊下を走った。するとキッチンにいる空くんを見つける。どうやらお米を炊いてくれたらしい。

「三合にした?」
「わ! ビックリした。ちゃんとしてるって。ほら見ろ」

すると水の高さがピッタリ三の位置にある。よかった。前みたいに「自分がいないこと前提」で二合にしていたら、さすがに悲しいもん。
ほっと安心していると、空くんは「それより」と私の全身を見た後。バスルームから、大きなタオルを持って来た。

「なんでずぶ濡れなんだよ。雨でも降ったか?」

心配そうに眉を下げながら、頭からガシガシと拭いてくれる。少し乱暴だけど、優しさが嬉しい。私は素直に目を閉じて、さっき庭で起こったことを話す。

「ホースの水加減を間違えちゃった。おかげで水浸しだよ」
「はは、そりゃ災難だったな」

スタッカートみたいに弾んだ声で笑ってくれる空くん。つられて私も口がゆるんだ。

「それにね、おじいちゃんの声が聞こえたんだ。私の名前を呼んでくれたの」
「え、じいさんの?」
「うん!」

タオルから顔を出す。「おわ!」と声がしたと同時に、空くんの顔が目の前に!

「ひゃ! ご、ごめんッ」
「いや、俺こそ」

タオルから手を離し、空くんは私に背中を向ける。思ったよりも近い距離にビックリしちゃった。だけど、こうしちゃいられない。庭に咲いた芽を、空くんに見せなくちゃ!
「来て!」と言いながら、空くんの大きな手を引っ張る。空くんは「おい」と顔を赤くしながらも、私と一緒に庭まで走った。

「ほら見て、芽が出ているでしょ!」
「マジだ……」

昨日種をまいたばかりなのに?と、空くんが小声で呟く。私もすごく不思議だった。だけどね。

「お空から私たちを見てくれるおじいちゃんが〝この調子でがんばれ〟って意味で、お花に力をかしたんじゃないかな」
「それで花の成長スピードが上がった、か。信じられないけど、俺(元バラ)みたいな例外もあるし。何があっても不思議じゃないよな」

空くんは腕を組んで納得した後。「そっか」と笑って、私へ向き直る。

「じいさんは心春の頑張りを見ているんだな。これがご褒美っていうなら納得だ。だって今の心春は、スゴク頑張っているから」
「空くん……」

なにが正解か分からないまま猪突猛進でココまで来たけど……そう言ってもらえて嬉しい。いま私がやっていることは間違いじゃなかったんだ!

「でも私一人じゃ無理だった。空くんがそばにいてくれるから、勇気が出て色んなことに挑戦できるんだよ。本当にありがとう」
「いや、俺は……」

クッと唇を噛む空くん。悔しそうに、眉間にシワが寄っている。
〝また〟だ。最近の空くんは、私が分からない表情をすることが増えた。空くんは今、何を考えているんだろう。
すると家の中から、電話が鳴る音が聞こえた。私たちはハッとして、家の中へ駆け足で戻る。
 ガチャ

「はい、花屋です」

息を切らせながら受話器をとる。聞こえてきたのは、ビックリする人の声!

『あら心春、元気かい?』
「お、おばあちゃん⁉」

私の声に、空くんも「え」と驚く。久しぶりのおばあちゃんの声、元気そう!

「おばあちゃん元気? ちゃんと食べている?」
『はは、元気だよ。心配かけてごめんね』

少し笑った後、おばあちゃんは「それより」と話を変える。

『お母さんから聞いたよ。今、空くんって子と一緒に住んでいるんだって?』
「うん。そうなの。ちょっと待ってね」

私は電話をスピーカーにして、皆で話が出来るようにする。すると空くんが受話器を持ち、私との間に掲げた。

「初めまして。薔薇園空です。おじいさんの遠縁にあたる……」
『あぁ、おじいちゃんから聞いているよ。夢の中で会ったからね』
「「え?」」

おばあちゃんは懐かしむように、さっき見たらしい夢の話をした。

『夢の中におじいちゃんが出て来たんだ。私とおじちゃんは、家の庭で二人並んで立っていてね。そしてガーデニングをする心春と空くんを見ていたよ』
「私たちを?」
『そう。それでおじいちゃんったらスゴク嬉しそうな顔で、
〝もう心配いらないな〟って。そう言ったのよ』
「「!」」

その後おじいちゃんは、花壇の土を触ったという。すると土が光り、おばあちゃんは思わず目を瞑った。その間に、おじいちゃんは消えていたらしい。

『本当に不思議な夢だったわ。でもガーデニング命のおじいちゃんのことだから、夢じゃなくて本当だったかもなぁって思うのよ』
「……じいさんが手を触れた土は、家に一番近い場所ですか?」

空くんが言う場所は、さっき芽が出た場所だ。ドキドキして回答を待つと、おばあちゃんはしっかりした声で返事をする。

『そこだよ。あの光景は、まるでおじいちゃんが土に力を与えているようだった』
「「っ!」」

これでハッキリした。蒔いた種が翌日に芽を出した理由。それはきっと、おじいちゃんが力をかしてくれたからだ。空くんの言うように、おじいちゃんは私たちを見守ってくれていたんだ!

「おばあちゃん。私いまガーデニングをやっていてね、昨日種を植えたの! そうしたらすぐ芽が出てね……それ、おじいちゃんの力だったんだっ」

嬉しくて感動して、考えがまとまらないまま喋る。嗚咽で聞き取りづらいだろうに、それでもおばあちゃんは「そうだね」と何度も頷いてくれる。

『空くん、そこにいるかい?』
「はい」
『空くんが来てから心春が明るくなったと、お母さんが教えてくれた。空くん、ありがとうね。可能なら、一つだけ約束してほしいことがある』

空くんは栗色の瞳を凛々しく輝かせ、「はい」と力強く頷く。
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