花屋のガーデニング委員会!
11.空くんVS日向くん!
放課後。今日は部活が休みの麻衣ちゃんと、いつ麻衣ちゃんと仲良くなったか分からない長谷川さんと、そして空くんと私――という珍しいメンバーで帰宅することになった。いま皆で下駄箱まで歩いている途中。
「あたし見たの! あの生徒会長が心春にだけ優しい笑顔を向ける瞬間を!」
「そのギャップはヤバいわね……!」
さっきから麻衣ちゃんと長谷川さんがウンウンと頷き合戦。女子二人が笑い合う姿は可愛いけど、いかんせん内容がいただけないばかりか何だか物騒だ。
「姫を狙った男子三人が大バトル!」
「ついに戦いが始まるのね……!」
長谷川さん本人から「恋バナ好き」と聞いていたけど、想像以上だよ! ハハと乾いた笑いを浮かべながら、手に持った紙に目を落とす。
「心春、それ何?」
「ガーデニング委員の当番表。明日から水やり当番が始まるんだ」
「一人でするのか?」
「隣のクラスの日向くんと一週間やるよ。見る?」
「へぇ…………」
鬼の形相をした空くんが果たし状を受け取ったように、当番表を凝視する。物々しいオーラ! 目が血走ってない? 気のせいであってほしいけど!
すると空くんの手から、いきなり当番表が姿を消した。
シュッ
「へぇ、俺って心春と一緒なんだな。ラッキー」
「「ん?」」
声のした方へ向くと、さっきまで空くんが持っていた当番表をシゲシゲと眺める人。銀髪にピアス、着崩した制服――この恰好は忘れもしない。
「日向くん!」
「おー、昨日ぶり」
ニッと笑って八重歯を見せた日向くんは、ワシワシと私の頭をなでる。だけど空くんがすかさず、日向くんの手をはたき落した。
「おい、なんだよ?」
「今のタッチはいらなかっただろ。心春がビックリするからやめろ」
「あ?」
二人の間で、バチバチと激しい火花が散る。お母さんが天ぷらする時も、こんな音が鳴っていた。つまりこの二人は火と油! 相性がよくないんだ!
「ほらよ心春、これ返すわ」
「どーも」
日向くんが担当表を私へ渡す。だけど受け取ったのは空くん。不満に思った日向くんが、ピクリとこめかみを震わせた。
「お前、最近転校してきた奴だろ?」
「そうだ。いま心春と一緒に住んでいる」
「は⁉」
は? は? は?――
日向くんの大きな声が下駄箱を通って、校舎の外へ突き抜ける。エコーと化した叫び声は、順番に空へ吸収された。
「ふ、二人が一緒に住んでる? そんなん許されねーだろ!」
「うるさいな。遠縁だから許すも許さないもない。家庭の事情だ」
「遠縁……あぁ、そーゆーこと」
納得した日向くんは前へ出て、なめるように空くんを見上げる。
「じゃあ一生、心春と〝そーゆー関係になれねー〟ってことか」
「!」
空くんは拳を握る。だけど強く握りすぎて、中からパキッと骨が鳴る。空くんは顔を歪め、唇をかみしめた。
「俺が〝この場所にふさわしくない〟って、ちゃんと知っている」
「反論はそれだけかよ」
「……」
黙った空くんを見て、日向くんは「つまんね」と頭の後ろで手を組む。次に空くんの肩を自分の肩でドンと押しやり、私へ近づいた。
「昨日は悪かったな。花のことはさっぱり分からねーんだ。だからアンタが教えてくれよ。俺、委員会がんばるからさ」
「もちろんだよ! いま私もね、空くんから色々と教わっているんだよ」
空くんの腕を引っ張る。するとなぜか日向くんの眉尻が跳ね上がった。
「チッ。気に食わねぇな」
「ひ……!」
ついに日向くんから舌打ちがでちゃった! ギラギラと燃えるように銀髪が光って見える! 空気を変えようと、頭の中で必死に話題を探す。
「ひ、日向くんは、お花が好きなの?」
「あ?」
「こ、答えたくないなら答えなくて大丈夫だから!」
ピャッと身をすくめた私を見て、空くんが日向くんを睨む。どうやら牽制らしい。すると日向くんは再び舌打ちをするも、「……いんだよ」と話し始めた。
「花が好きな妹がいんだよ。もし家で花が咲いたら、アイツが喜ぶと思って……」
「そうだったんだね」
全て妹ちゃんのためなんだ。日向くんって見た目は怖いけど優しい人!
「私もね、家の庭を花でいっぱいにさせたいんだ。もちろん学校も! 同じ初心者同士、ガーデニング頑張ろうねっ」
「お、おう」
気まずそうに顔をそらす日向くんだけど、顔には笑みが浮かんでいる。きっと妹ちゃんの前では、もっと優しい顔になるんだろうな。いいお兄ちゃんって感じがするもん。
すると突然、第三者の声が聞こえた。
「あの~、二人ってどういう関係なの?」
見ると、頬を赤くした長谷川さんと麻衣ちゃん。いつの間に戻ってきたの⁉ 二人とも興味津々って顔で、私と空くんと日向くんの顔を順番に見ている。あぁ、絶対に誤解しているよ! 大事になる前に、急いで二人へ説明を開始する。
「日向くんは一緒のガーデニング委員なんだよ。日向くん、紹介するね。こちらは麻衣ちゃんと長谷川さん。私の、」
「「友達です。初めましてー」」
語尾にハートが飛ぶ二人を、日向くんは怪訝な顔で見つめる。早くも居心地の悪さに気付いたらしい。ろくに二人と会話しないまま「じゃ」と、足早に帰っちゃった。残念がった二人だけど、膨らませた頬がピンクに色づいて行く。
「少し困っている日向くん、ちょっとカッコよくなかった?」
「プラス、ちょっと可愛いわよね?」
「分かる~!」
あの日向くんを怖いと思うのではなく、可愛い? 麻衣ちゃんと長谷川さん、もしかして最強なのでは……! ビックリする私の横で、空くんが靴へ履き替える。すると長谷川さんが私と空くんの前へやってきた。
「二人は遠縁の仲なのね。それなのに色々噂しちゃってごめんなさい。どっちがどっちを好きとか、言うべきじゃなかったわ」
「ぶっ! そんなこと言っていたのかよ……」
吹き出した空くんの横で、私は「いいよ」と手を振る。すると長谷川さんに、ガッシリと手をホールドされた。すごい力だ!
「例え遠縁であっても二人の間に愛があれば、どんな障害でも乗り越えていけるから。だから私、やっぱり二人のことを応援するわね!」
「ぶーっ!」
また空くんが吹き出しちゃった! しかもさっきよりも盛大に!
私は長谷川さんの手を退けつつ「大丈夫だよ」とやんわり断る。
「私と空くんは遠縁であり、ただの友達だから」
「……」
空くんは、もう吹き出さなかった。代わりに「あぁ」と真顔で頷く。
「俺らは〝ずっと〟友達だ。この関係は変わらない」
……ズキッ
なんか今、胸の奥が痛かったような……気のせいかな。胸のあたりを触っていると、長谷川さんは「そっか」と、残念そうに笑う。
「ご両人がそう言っているのに、茶化して噂するのは良くないわよね。これからは言わないようにするわね」
しょんぼりと下がった肩がなんだか可哀想で。なんて声を掛けようか迷う。
その時、さっき日向くんと話した時を思い出した。
「さっき日向くんに〝私の友達〟って言ってくれて嬉しかった。私のこと心春って呼んでほしいな。私も椿ちゃんって呼ぶから!」
「嬉しいわ。ありがとう、ハルハル」
「ハルハル?」
「私、仲が良い友達にはニックネームをつけちゃうの」
すると隣にいた麻衣ちゃんが「ズルい~」と、私と椿ちゃんの間に割って入る。
「私も名前で呼んでよ椿~! 恋バナ同盟の仲じゃんっ」
「もちろんよ、マイマイ」
「わーい、ありがとー!」
二人の友情は尊いけど、いま聞きなれない単語が聞こえた。恋バナ同盟って何? 分からない者同士、空くんと私は顔を合わせる。すると麻衣ちゃんと椿ちゃんは互いに手を取り合い「これからも恋バナ同盟に幸あれ!」と祈りを捧げていた。
「あ、恋バナ同盟っていうのはね」
置いてけぼりの私たちに気付いた麻衣ちゃんが、人差し指をピンと立てる。
「片思いしている人を応援したり、この二人にくっついてほしいな~って人を応援したり、あとは三角関係の人達を観察したり。つまり恋の応援団というわけなの」
「恋の」
「応援団……」
私と空くんは、ポカンと口を開ける。だけど自称「恋バナ同盟」の二人は、いつの間にか靴に履きかえていたようで、さっさと校舎を後にした。「だからこれからも応援させてね~」という捨て台詞つきで。
「よく分からないが、俺たちも行くか」
「そうだね、帰ろっか」
そして私たちは帰路につく。夕日の影が当たっているせいか、空くんの顔が暗く見える。
「空くん、どうしたの? 何かあった?」
すると空くんはハッと私を見つめた後。
「なんでもない」
そう言って、日向くんから受け取った当番表を私へ返した。
「明日からの水やり頑張れよ」
「うん! 花に元気になってもらわなきゃね!」
空くんは目を細めて笑う。よかった、いつもの空くんだ。じゃあさっき見た寂しそうな顔は、私の見間違いだったのかな?