彼は魅惑のバレリーノ
スランプ
まずい。本当にまずい。
如月一華(きさらぎ いちか)、28歳。
私は今、デスクに突っ伏したい気持ちを必死でこらえていた。
完全にスランプだ。
美術大学を卒業してミライデザイン出版社に入り、イラストレーターとして働き始めて数年。
順調に見えていたはずのキャリアは、ここ最近になって急に雲行きが怪しくなってきた。
「うーん、このデザイン、なんだかイマイチですね。」
「前の作品は良かったんですけどね。」
そんな言葉ばかり耳に入る。
自分でもわかっている。
あの頃の私は、“きれいだ”“好きだ”と思えるものを、ただまっすぐに描いていた。
だからこそ、作品に力があった。
でも今は違う。
社会人として、好きなものだけ描いて生きていけるほど甘くないことも理解している。
はあああ……。
深いため息が、勝手に漏れた。
このままではいけない。
何か、今の自分に新しい刺激をくれるものを取り入れなければ。
トボトボと歩いていると、ロシアンブルーの猫がすっと目の前を横切った。
「わぁ…綺麗な猫ちゃん!」
胸の奥がふっと明るくなる。
なんだかインスピレーションが湧きそうな気がした。
気づけば、ヒールのまま駆け出していた。
待って〜。
猫は軽やかに路地裏へと消えていく。
見慣れない細い道。
けれど、不思議と足は止まらなかった。
やがて、ある家の前で猫は立ち止まり、
ひょいっと窓から中へ入ってしまった。
「行っちゃった…」
名残惜しさに、私はそっと窓へ近づく。
そして――
中を覗いた瞬間、私は固まった。
如月一華(きさらぎ いちか)、28歳。
私は今、デスクに突っ伏したい気持ちを必死でこらえていた。
完全にスランプだ。
美術大学を卒業してミライデザイン出版社に入り、イラストレーターとして働き始めて数年。
順調に見えていたはずのキャリアは、ここ最近になって急に雲行きが怪しくなってきた。
「うーん、このデザイン、なんだかイマイチですね。」
「前の作品は良かったんですけどね。」
そんな言葉ばかり耳に入る。
自分でもわかっている。
あの頃の私は、“きれいだ”“好きだ”と思えるものを、ただまっすぐに描いていた。
だからこそ、作品に力があった。
でも今は違う。
社会人として、好きなものだけ描いて生きていけるほど甘くないことも理解している。
はあああ……。
深いため息が、勝手に漏れた。
このままではいけない。
何か、今の自分に新しい刺激をくれるものを取り入れなければ。
トボトボと歩いていると、ロシアンブルーの猫がすっと目の前を横切った。
「わぁ…綺麗な猫ちゃん!」
胸の奥がふっと明るくなる。
なんだかインスピレーションが湧きそうな気がした。
気づけば、ヒールのまま駆け出していた。
待って〜。
猫は軽やかに路地裏へと消えていく。
見慣れない細い道。
けれど、不思議と足は止まらなかった。
やがて、ある家の前で猫は立ち止まり、
ひょいっと窓から中へ入ってしまった。
「行っちゃった…」
名残惜しさに、私はそっと窓へ近づく。
そして――
中を覗いた瞬間、私は固まった。
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