彼は魅惑のバレリーノ
鏡に、シューズに、タオル。
部屋の中は、バレエダンサーの生活がそのまま詰まっていた。

私は思わずキョロキョロと見渡してしまう。

「落ち着きなよ。挙動不審すぎる。」

そう言いながら、戸神さんはコーヒーを差し出してくれた。

「ありがとうございます。」

「ミルクと砂糖は?」

「いただきます。」

カップを両手で包むと、少しだけ緊張がほぐれた気がした。

「それで、なんでモデル頼みたいわけ?」

肘をつきながら、まっすぐこちらを見る。
その視線が鋭くて、でもどこか静かで、胸がざわつく。

「それは、戸神さんが美しいからです!
私いままで生きて来た中でこんな綺麗な人初めて見ました。
翼が見えましたもん!!すごい!!」

言った瞬間、自分でも驚くくらいストレートだった。
戸神さんは目を丸くする。

「なにそれ…。」

呆れたような声。
でも、完全に突き放す感じではない。

「わ、私、美大出てからイラストレーターとして働いているんです。
だけど最近うまく描けなくて…そんなとき、戸神さんを見かけたんです。」

言葉が止まらなくなる。
胸の奥に溜めていたものが、勝手にあふれ出す。

「なんか、インスピレーションがもらえそうで!」

力説する私をよそに、戸神さんは興味なさそうにティースプーンをくるくる回している。
でも、その指先は止まっていなかった。
完全に無関心ってわけでもなさそうだ。
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