彼は魅惑のバレリーノ
シャワーから出ると、
柊くんはソファに座ったまま、すぐに顔を上げた。

「おかえり。
おいで。髪乾かそ。」

その言い方があまりに自然で、
胸がじんわり温かくなる。

「あ、ありがとう。」

タオルを受け取りながら座ると、
柊くんはいつものようにドライヤーを手に取った。

恋人になる前と変わらない仕草。
でも、
“このあとどうなるんだろう”
という意識がどうしても消えなくて、
心臓が落ち着かない。

温かい風が髪を撫でるたびに、
背中がくすぐったくなる。

「はい、おわり。
今日はオレンジのヘアオイル塗っといたよ。」

「ありがとう。」

髪に触れる指先が優しくて、
そのたびに胸がきゅっとなる。

「俺も入ってくるね。
寝ちゃだめだよ?」

ふっと笑うその顔が、
さっきより少しだけ大人っぽく見えた。

(ね、寝ちゃだめって……
つまり、そういう……)

頭の中が一気に熱くなる。

柊くんは立ち上がり、
バスルームへ向かう前にちらりとこちらを見る。

「逃げないでね。」

軽く言ったその一言が、
心臓に直撃する。

ドアが閉まったあと、
私はクッションを抱きしめて小さく呻いた。

「ど、どうしよう……
心の準備が……」

でも、
逃げたいわけじゃない。

ただ、
“好きな人と恋人になった日の夜”が
こんなに甘くて、
こんなに現実味を帯びてくるなんて思わなかっただけ。

とりあえず、下着も持っている中で一番可愛いのにした。


胸の奥がじんわり熱くて、
落ち着かないまま、
柊くんの戻りを待つ。

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