彼は魅惑のバレリーノ
「えー!! それで今付き合ってるの!?
やったじゃん。」

店のざわめきから少し離れた席。
照明がグラスに反射して、テーブルの上に揺れる光を落としている。
亜季は身を乗り出し、目を輝かせている。

「ありがとう。」

照れくさく笑うと、亜季はさらにテンションを上げる。

「でも、そっか〜いいわね!
あ、でも日本公演終わったらどうなるの?
しばらくはこっちにいるの?」

「そういえば…どうなんだろう。」

言われて初めて、胸の奥がきゅっとした。
日本公演が終わったら、彼はまた海外に戻るのかもしれない。
その先の話を、まだ何も聞いていなかった。

「聞いてないの?」

「なにも。」

「そう。
まあ、でも幸せを噛み締めて飲むわよー!!」

亜季が勢いよくグラスを掲げる。
その明るさに救われるように、私も笑って乾杯した。

二人で飲んでいると、背後から低い声が飛んでくる。

「おい、高橋。
如月に飲ませすぎだよ。」

振り返ると、深山が眉を寄せて立っていた。
その表情に、亜季がすかさず絡む。

「なによー、この色男。」

「なんだよ、それ。」

「だって、あんなに女子社員に囲まれてたじゃない。」

「いやー、もう疲れた。避難避難。」

そう言って、深山は私の前の席に腰を下ろす。
ほんの少しだけ、ほっとしたような顔をして。

「あ、あたし園部さんに挨拶してこよ〜!」

亜季が突然立ち上がり、ひらひらと手を振りながら去っていく。

「ほんと自由だな。」

深山が呆れたように笑う。

その背中に向かって、亜季が振り返りざまに叫ぶ。

「一華に手出しちゃだめよー! この子、彼氏できたから!」

ふふん、と得意げに笑って。

「知ってるよ。」

深山はグラスを軽く揺らしながら、いつもの落ち着いた声で答えた。
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