彼は魅惑のバレリーノ
チラッと覗くと、舞台袖は大忙しだった。
スタッフが走り回り、団員たちが最終チェックをしている。
その中で、柊くんが団員たちに指示を出していた。
真剣な横顔に、胸がぎゅっとなる。
「柊。」
美玲ちゃんが声をかけると、柊くんが振り向き、
私を見つけた瞬間、ふわりと手を振ってくれた。
「一華さん。」
「舞台始まる前に会いたいと思って連れて来た。」
美玲がそう言うと、
「ありがとう。」
柊くんが、柔らかく笑う。
その笑顔だけで緊張が少し溶ける。
美玲は「じゃ、あとはごゆっくり」と言って去っていった。
「邪魔じゃなかった?」
「ううん。本番前に会えて嬉しい。
こっちおいで。」
手を引かれて、舞台袖の陰へ移動する。
人の気配が少し遠のいた瞬間——
ふわりと抱きしめられた。
「柊くん?」
「本番前にエネルギーもらおうと思って。」
「そういうことなら、どんどん貰って!」
思わず笑うと、柊くんもふふっと優しく笑った。
「ちゃんと見ててね。
今日は一華さんのためだけに踊るから。」
「それありなの?」
「ありだよ。あり。」
そう言って、そっと額にキスを落とす。
一瞬、息が止まった。
「じゃあまたあとで。」
「うん。」
柊くんは舞台へ戻っていき、
私は胸を押さえながら、その背中を見送った。