彼は魅惑のバレリーノ

エピローグ

それから柊くんはフランスへ旅立っていった。

「へぇー、もうフランスにね。
売れっ子は忙しいわね。」

美玲がコーヒーを飲みながら言う。

「美玲ちゃんはどうするの? しばらく日本?」

「うん。日本で別の公演に出る予定だからね。」

「美玲ちゃんも十分忙しいじゃん。」

「まあ、ね。」

そんな会話をしていると——

「おい。これ忘れてったぞ。」

兄がスケッチブックを持って現れた。

「お兄、ありがとう。」

この前ご飯に行ったときに置いていったやつだ。

「あ、どうも。兄の如月 太一です。」

しれっと当然のように同じ席に座る。

「初めまして。私は——」

美玲が名乗ろうとした瞬間、

「知ってる! 海の女神の子だ。
舞台で見るより、実物のほうが美人だな。」

「ちょっと!」

私は兄の足を蹴る。

「いてぇな。」

「仕事でしょ? 早く行きなよ。」

「はいはい。
じゃあね、海の女神様。
あ、俺はあのアルトってやつは気に入らないから。
結ばれなくて良かったって思ったよ。」

「何言ってるの!」

ほんと失礼すぎる。

「ごめんね。デリカシーなくて。」

私が謝ると、美玲はストローをくるくる回しながら、

「ねぇ、私の王子様いたかも。」

「え?」

まさかの発言に、私は素っ頓狂な声をあげた。

美玲は頬をほんのり赤くして、
さっきの兄の去っていく背中をちらっと見る。

……え、ちょっと待って。
まさかの方向に物語が動き始めてる。
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