彼は魅惑のバレリーノ
「綺麗ねー。相当モテモテでしょ。」
「にやぁ。」
「私も猫に生まれ変わったら、あなたみたいな美人猫になりたいなぁ。」
「にゃあ。」
返事まで上品だ。
毛並みは艶やかで、濃いブルーが光を吸い込むみたいに滑らかだった。
気づけば、そこで二時間も描いていた。
集中しすぎて、時間の感覚がすっぽり抜け落ちていた。
そんなとき――
「ねぇ。まじでしつこいんだけど。」
背後から低い声がして、心臓が跳ね上がった。
振り返ると、戸神さんが腕を組んで立っていた。
冷たい視線がまっすぐこちらに向けられている。
「わあ! ごめんなさい!」
慌てて立ち上がると、彼はふっと眉をひそめた。
「あれ、でもマリアが大人しくしてるの珍しいな。」
「にゃあ。」
ロシアンブルー――マリアさんはすっと立ち上がり、
まるで“おかえり”と言うように戸神さんの足元へすり寄った。
その姿がまた優雅で、
私はスケッチブックを胸に抱えたまま、思わず見とれてしまった。