彼は魅惑のバレリーノ

マリアさん

諦めきれないな…。
どうしても、あの人をモデルにして描きたい。

そうすれば、何か掴める気がする。
胸の奥でずっとざわついている“何か”に触れられる気がする。

そんなことを考えていたら、また足が勝手に向いていた。

「あ、またやってきてしまった。」

自分でも呆れるけれど、もう止められない。
窓を見ると、今日もカーテンがしっかり閉じている。

「いないか…。」

ため息をついたそのとき、足元に影が落ちた。

「あ、猫さんこんにちは。」

そこにいたのは、ロシアンブルー。
青みがかった毛並みが光を吸い込むみたいに滑らかで、
細い体つきなのに、どこか女王様みたいな雰囲気がある。

ふいっと横を向く仕草が、妙に気高い。

「とっても美人な猫さんだなぁ。
ちょっとモデルやってくれますー?」

声をかけると、猫はちらりとこちらを見て、
まるで「まあ、座ってあげてもいいけど?」と言うように
スッと優雅に腰を下ろした。

その姿勢が完璧すぎて、思わず笑ってしまう。

「ありがとう。じゃあ描かせてもらいますね。」


そして私は石段に腰を下ろし、スケッチブックを開いた。
鉛筆を走らせると、ロシアンブルーはじっとこちらを見つめている。

綺麗な猫さんは微動だにせず、
まるで本当にモデルを引き受けたかのように静かに座っていた。
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