亡者逃走中 in 現世
第一章、ポンコツ閻魔のミス

地獄の王がやってきた

「起きろよー」
切実に問いたい。
朝起きると、家族でも何でもない友達が部屋にいた時の対処法を。
殴るか、悲鳴を上げるか、はたまた見惚れるか。
とりあえず私は夢の中だろうと判断し、目を閉じた。
あー、今日の朝ご飯は焼き魚が良いなぁ。
できれば皮パリパリで。お味噌汁はあげさんが良いなぁ。
それが、普通を知らない私の出した答えだった。
しかし、目の前の男はそんな現実逃避すら見逃してくれないらしい。
いつもは朝が弱いくせに……!
「……十秒以内に起きないと等活地獄(とうかつじごく)()とすよ」
「うわぁぁぁ!」
ガバッと布団から飛び起きた。
畳の上に眠そうにあぐらをかきながら座っているのは、同じく十王の仲間の変成王(へんじょうおう)
笑顔で殴ってくるから、サイコパスとか言われている。
ちなみに私は秦広王(しんこうおう)だよ。
十王や獄卒の暗黙のルールで、『変成王が怒ったら、すぐ逃げよう』っていうのがあるくらいには、危険人物である。
「おはよう」なんて言う余裕はない。布団を蹴飛ばしたまま私は仰向けにのけ反り、目の前の変成くんを凝視した。
「脅されて起きるの、目覚めが悪いからやめてよ!」
「お前が起きないからでしょ」
にこやかな笑みでとんでもないこと言ったぞ、おい。
しかも否定できないのが腹立つ。
とりあえず変成くんを追い出して、のそのそと着替え始める。
私が生まれ育ったのは『地獄』と呼ばれる場所だ。
そして十王は、悪行をして死後地獄に落とされた亡者(もうじゃ)達を裁き、管理するのが仕事……なんだけど。
地獄の王であり、私達の同僚でもある閻魔大王は、ポンコツすぎて笑えない。
人道には『嘘をつくと閻魔大王に舌を抜かれる』という迷信があるらしいが、全然そんなことはない。
昔ちょっと厳しく裁こうとしたら、亡者達による大ブーイングで閻魔が三日寝込んだ。
……地獄の王の威厳(いげん)って何だっけ?
(あ、元からなかったわ……)
他の十王や部下である獄卒からは『馬鹿』だの『馬鹿閻魔』とか言われている。少なくとも変成くんには言われている。
お昼から閻魔に呼ばれているので、お昼ご飯を食べ終わったら向かおうかな。
―――今まで、その手の呼び出しでまともな用事だった試しはない。
『仕事めんどい、ぴえん』とか。
『仕事多すぎて、ぴえん』とか……。
……挙げだしたらキリがない。
「秦広王、来てくれたんだね!」
「……」
***
―――嫌な予感しかしない。
えーっと、縄でぎゅうぎゅうに縛られ、土下座させられているのは……閻魔だよね?
「え、何してんの......?」
「いやぁね〜、地獄の扉を開けっ放しにしながら寝ていたら亡者(もうじゃ)達、逃げちゃった☆……それで反省してます」
「秦!今夜はバーベキューだ!」
「え、僕、焼かれる?」
「炭火焼きが良いですか?」
「あーん、めっちゃキレてるー」
縄で縛られたまま転がる閻魔。
縄で縛られたまま転がる閻魔。
それを囲みながら「おめーら今日の晩飯はバーベキューだ!」と、はしゃいでいる十王と獄卒達。
……うん。
うん?
(よーし、私は焼肉のタレ買ってこよーっと!)
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