亡者逃走中in現世
すると、材料を前にして美穂ちゃんがひと言。

「ごめん。私、料理下手なんだよね」

どうやら美穂ちゃん、料理はあまりしたことないみたいで。

「大丈夫だよ。じゃあ、野菜は私が切るね」

そう言うと、申し訳なさそうに目の前で両手を合わせた。

全然気にしてないから大丈夫だよ。

「本当にごめん!代わりに火起こしでもなんでもやるから!」

そしたらそこで変成くんが飯盒をサッと差し出して。

「じゃあ、米炊くのお願いしても良い?」

「うん、お米ね。オッケー!」

そうして私と変成くんは野菜を切る係、美穂ちゃんはお米係、他の子達はカレーの係になった。

「じゃあ私、お米取りに行ってきまーす」

美穂ちゃんがそう言って先生のところへ行くのを見送った後は、二人で早速野菜を分担して切り始める。

私はとりあえず、ジャガイモの皮むきからすることに。

変成くんは玉ねぎ、私はジャガイモ。

それぞれ手元に集中しながら、聞こえてくるのは包丁のリズムだけ——

……と言いたいところだけど、現実はそう上手くいかない。

「えっと……先生、お米ってどれくらい持っていけばいいんですか?」

少し離れたところで、美穂ちゃんの声が聞こえてくる。
「六人分なら、このくらいだな」

「えっ、 こんなに炊けますか!?」

「炊くんだよ」

先生は呆れながらそう言った。

その後、少しお米が焦げたりなどのプチハプニングがあれど、美味しいおこげカレーが作れた。

✳✳✳

一日目の活動を終えた後はお風呂に入って、同じ部屋の女の子五人でのガールズトークが始まった。

「美穂ちゃんは好きな人いないの?」

「え〜……部活の先輩がちょっと気になってて……」

「きゃー!そうだんだ!」

みんな、好きな男子や気になる人の話で大盛り上がり。

そして、やっぱり話題に上がってきたのは、

「でもうちのクラスと言えば楓くんだよね〜」

変成くんだった。

変成くんのファンクラブは何故か『貴公子楓を見守る会』という名前が付き、上級生の子まで入会しているという程の人気っぷり。

「ねぇねぇ、真宵ちゃんは楓くんといつも一緒にいるけど、幼馴染なんだよね」

「え!?」

急に話を振られて、びっくりしてしまう。

「やっぱり、楓くんの小さい時の話とか聞きたい!」

「私も!」

「お願い!白崎さん!」

みんながぐいっと身を乗り出してくる。

部屋の空気が、一気に『暴露会』に変わってしまった。

「え、えっと……小さい頃の話?」

「そう!なんかないの?可愛いエピソードとか!」

「楓くんって完璧って感じだけど、昔はドジだったとか!」

「泣き虫だったとか!」

四方八方から質問の嵐。

私は完全に逃げ場を失った。

確かに変成くんとは幼い頃から一緒だったけど、あの人、幼少期から完成されてた気がするんだよね……。

というか、昔から落ち着いてて……むしろ私の方がいろいろ世話されてた。

でも、みんなのキラキラした期待の目がまぶしすぎて、「ごめん、特にない」なんて言いにくい。

「えっと……」

苦し紛れに、なんとか思い出を探る。

(何かあったはず……なんか……なんか……!)

宋としょーくんにグループのメッセージアプリで『変成くんの小さい頃の可愛いエピソードって何かある!?友達に聞かれてさ〜』と送ったら、即既読が付いた。

―――なになに、恋バナ〜?w

―――川のことでも言っとけ

(あ、あれ……)

しょーくんのメールでひとつだけ、思い出が引っかかった。

「……あの、小さい頃、川で遊んだ時に……」

「うんうん!」

「どうしたの!?」

みんなの期待が天井を突き抜けそうだ。

「……私が足を滑らせて転んで……水飲んじゃって……」

「え!?真宵ちゃんが!?」

「で、でね、そしたら……」

あまりに可愛くない自分のエピソードに、喉が詰まる。

「楓くんが、泣いた」

「「「ぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」

部屋が揺れた。

「な、泣いたって……楓くんが!?」

「嘘でしょ!? あのクールな楓くんが!?」

「真宵ちゃんが溺れたと思って……?」

泣いたのが変成くんと宋、怒ったのがしょーくん。

(今思い返すと恥ずかしいかも......)

「やばっ……真宵ちゃん、絶対特別じゃん!」

「幼馴染に泣かれるヒロイン、本当に存在したんだ……」

「楓くん、真宵ちゃんのこと小さい頃から守ってたんだねぇ〜!」

みんながもう勝手に盛り上がってる。

美穂ちゃんも「少女漫画の世界じゃん……!」と目を輝かせていた。

ガールズトークがひと段落した後、何故か男子の部屋に行こう!ということになった。

「お邪魔しまーす」

「遊びに来たぞー」

女子五人で男子部屋を訪ねると、そこは大部屋の和室でクラスメイトの男子八人がゲームをしたり雑誌を読んだりしてくつろいでいた。

そこには変成くんもいて。

だけど、何とも言えない渋い表情で私のことをじっと見たかと思うと、すぐにパッと目を逸らす。

(あれ?何か不機嫌……?)

心当たりはこれといったものはないんだよね〜と頭を捻っていたらその時、部屋にいた男子の一人が私達の方に駆け寄ってきた。

「女子が来るとか最高!良かったらカードゲームしない?」

「良いね!やりたーい!」

「よし、じゃあみんな入ってよ」

他の子達に誘導されるがまま着いていくと、ちょうど変成くんを含めた四人でカードゲームをしている途中だった。

「次から女子も入れてやろうぜ〜」

「良いね良いね!」

「このゲーム定員七人だったよね。全員は無理じゃない?」

それを聞いて、思わず遠慮しようとしたら、サッと美穂ちゃんが手を上げた。

「じゃあ私と真宵は待っとくから、先に澪(みお)達先にどうぞ〜」

「え、良いの?」

「うん、メンバー交代しながらやろうよ」

すかさず提案してくれたので、先に澪ちゃん達がやることになり、私と美穂ちゃんは傍で待つことに。

男女七人がゲームでワイワイ盛り上がる傍で、美穂ちゃんとスマホで動画を見たりしながらまったり過ごす。

すると、みんなの楽しそうな会話が聞こえてくる。

「てかさ、楓くんって好きな人いないの?」

「あ、私も気になる!」

「いない」

変成くんが即答したのを聞いて、男子達がはやし立てる。

「信じらんないよなぁ〜!あんなモテるのに入学以来、全部の告白を断ってるらしいぜ」

「良いよな〜、一人くらい分けてくれよ〜」

「その中に付き合ってみたい子とかいなかったの?」

美穂ちゃんが尋ねると、楓くんは頷いた。

「いないね」

「そっかぁ……」

それにしても熱気すごいなぁ……。何だか暑くなっちゃったよ。

そう思った私は、美穂ちゃんにひと言告げ、一旦部屋を出て飲み物を買いに行くことにした。
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