亡者逃走中 in 現世
「ふぅ……」
自販機で買ったお茶をひと口飲み、ひと息つく。
(何だか疲れちゃったな……)
大勢でワイワイするのは好きだけど、やっぱり疲れてしまう。
でもそろそろゲームの順番もまわってくるから戻った方が良いよね?
そう思って早足で歩き出そうとした時、ふと誰かに呼び止められた。
「ねぇ、白崎さんだよね?」
ハッとして振り向くと、そこには見覚えのない男の子がいて……。
多分、他のクラスの子だと思うけど、誰だろう?
「そうだけど……」
「良かった!白崎さんのこと探してたんだ」
「え?」
「俺の友達が呼んできてって言うからさ」
それを聞いて友達って誰なんだろう?って思ったのもつかの間、ギュッと手を掴まれ、引っ張られる。
「良いからちょっと来てよ」
そして、そのまま二人部屋の洋室に連れてこられた。
「あの……私に何か用?」
今更のように尋ねる私。
だけど彼はその質問に答えるより先にドアの扉をガチャっと開けた。
「おーい!良平、連れてきたぞ〜」
「え?」
なんとそこには、始業式の日に連絡先を聞いてきた田中良平くん(変成くん曰くナンパ)がいて……。
「おお!真宵ちゃん、待ってたぜ〜」
嬉しそうに出迎えてくれる田中くん。
(連れて来られただけですけど……)
「ありがとうな、藤和(とうわ)
「いえいえ、あとは二人でごゆっくり〜」
私を連れて来た藤和という人はニヤニヤしながらそう告げると、去ってしまった。
「あの……ちょっと待って!?私、友達待たせてるから……」
慌てて田中くんに断りを入れようとしたら、彼は私の腕をギュッと掴んだ。
「ダーメ」
そしてそのまま私を強引に部屋に入れると、ガチャっと鍵を掛けた。
「せっかく真宵ちゃんと二人きりになれたのに、帰す訳ないじゃん」
「なっ……!」
「今から俺と真宵ちゃんでトランプ対決しようよ。負けたら勝った人の言うことを一つだけ聞く」
(何それ……そんなの無茶苦茶だよ!)
あまりにも勝手な彼の提案に戸惑って何も答えられずにいたら、田中くんがそんな私の肩をサッと抱いてきた。
「それともトランプじゃなくて別の楽しいことする?」
その言葉に思わずゾッとする私。
だって、何か嫌な予感がしたから……。
「と、トランプで大丈夫……」
「ちぇ、まぁいっか。トランプしよーぜ」
そして、田中くんの言う通りトランプで対決することになってしまった。
どうしよう。何か強引すぎて何が何だか分からないけど、とりあえず私が勝てば良いんだよね?そしたら解放してくれるんだよね?
だったらもう、トランプに付き合うしかない。
別に二階から飛び降りることだってできるけど、誰かに見られたら終わる。
「よーし、それじゃあ、ババ抜きでもするか!」
田中くんはベットに腰掛け、トランプを配っていく。
(ババ抜きかぁ〜!小さい頃よく遊んでたな〜!)
変成くんと初江王のポーカーフェイスが凄すぎて、最後に残るのは私と宋だった。宋は逆に分かりやすすぎるから勝てた。
閻魔と勝負した時も分かりやすかった。
もしかしたら、手加減してくれていたかも……ないな。昔から分かりやすかったわ、あの人。
すると、その時ジャージのポケットに入れていたスマホがピコンと音を立てて、すぐさま取り出したら美穂ちゃんからメッセージが届いていた。
『真宵、今どこにいるの?トイレ?もうすぐ始まるよ』
それを見てハッとする私。
(もうそんな時間なの!?)
私は一瞬、田中くんから少しだけスマホを背中側に隠しながら、返信を打った。
『ごめん、ちょっと他クラスの人に呼ばれて……今から戻る!』
一応電話もかけた方が良いかと思い、美穂ちゃんの電話番号をタップする。
その瞬間、私のスマホがサッと奪い取られて。
「おいおい、助け呼ぼうとしてんの?」
田中くんは通話終了ボタンを押して電話を切ると、私のスマホを背後に置く。
「悪いけどトランプが終わるまでスマホは没収〜」
「えっ!?」
「仕方ねーじゃん。ここまでしないと真宵ちゃんと二人きりになれないし」
急に拗ねたような表情をする田中くんに少し驚く。
「楓……だっけ。あいついつもいつも真宵ちゃんの傍にいて、何様のつもりなんだよ」
「いや、別に……」
「俺はこうして二人で遊びたかったわけ。それくらい付き合ってくれたって良いだろ?」
そう言って私を真っ直ぐ見つめる田中くん。
本当に、トランプがしたかっただけなのかな……。
何故か変成くんには警戒されているけど、本当は悪い人じゃないのかな?
「まぁ、トランプだけなら良いよ」
コクリと頷いて、トランプのカードを手に取る。
田中くんとの、ババ抜きが始まった。
✳✳✳
試合は劣勢。
手元に残るカードは二枚。そのうちひとつがババ。対する田中くんのカードは一枚。
ここで彼がババじゃない方を引けば私は負ける。
なるべく表情に出さないように気をつけながら、二枚のカードを見つめた。
田中くんは少し迷って、スッとカードを引き抜く。
「お、よっしゃ!」
見事にババじゃない方を引き抜かれてしまった。
負けた……あれ、負けたらどうなるんだっけ?
「じゃあ罰ゲームな。……キスして」
「えぇ!?」
いきなりとんでもないことを口にしてきたので、思わず大声を上げてしまった。
「む、無理だよ!」
「えー、罰ゲームだろ〜」
「罰ゲームでも無理。いや本当にそれだけは無理です……」
私が全力で拒否すると、田中くんはじっと私の顔を覗き込んでくる。
「もしかして真宵ちゃんって、ファーストキスもまだとか」
「まだに決まってるじゃん!」
「じゃあ、真宵ちゃんのファーストキスを奪っちゃおっかな〜」
「ひっ」
今まで経験したことのない恐怖が、ゾワッと体中を駆け巡る。
ジリジリと後ずさる。その分、田中くんも距離を詰めた。
ドンドンドン!
激しくドアが叩かれる。
「おい、ここを開けろ!」
その声に顔を上げると、田中くんは盛大にため息をつく。
「なんだよー、今いいとこだったのに」
「真宵!ここにいるんだろ!?返事しろ!」
それは、紛れもなく変成くんの声で。
私はホッとしながら感激してしまった。
でも、どうして私がここにいるって分かったんだろう?オムライスでも来てるのかな?
「楓くん!」
私がドアの方に駆け寄ると、また奥の方から声が聞こえてくる。
「あー、やっぱりここにいる!」
「オムライスはさすがだな。人探しもできるなんて」
宋としょーくんだった。なんでここにいるのか分からないが、助けに来てくれたのかな?
「今開けるから!」
咄嗟に鍵に手を伸ばし、開けようとした瞬間。
「うっさいなぁ、せっかく二人きりだったのにさぁ」
後ろから田中くんが現れたかと思うと、手を掴んで阻止してきた。
「ダメだろ〜、真宵ちゃん。勝手に逃げちゃ」
(怖い怖い怖い怖い!)
するとドアの向こうから変成くんの怒鳴り声が聞こえてくる。
「おい、さっさと開けろ!ドアぶち破んぞ」
「おー、こっわ」
田中くんはドアの向こうまで聞こえるように煽ると、私の手を掴んできて。
「さ、戻ろ」
「私そろそろ……」
「何、帰りたいの?」
「うん」
「でも罰ゲームあるしなー……。じゃあ俺からチューしちゃおっかなー」
「やだ!」
「じゃあ早くしてよ」
そう言われて、何も言い返せなくなる。
ーーープルプル。
すぐ近くに置いてあったスマホの着信音が鳴った。画面には変成くんの名前が映し出されていたので、とっさに手に取る。
「楓くん!」
「あ、おい!」
『窓から飛び降りろ』
すると田中くんがまた私の手からスマホを奪う。
「ちょ、電話して……」
窓を開けて下を覗くと、変成くんと宋としょーくんとオムライスがいた。
「飛び降りろ!」
手を振りながら、変成くんが叫ぶ。
「おいおい、何言ってんだよ。あいつ」
すると隣に現れた田中くんが呆れたように呟くと、外にいる変成くんに向かって叫んだ。
「おい、真宵ちゃんに危険なことさせんじゃねーよ!大体、お前は真宵ちゃんの傍にいすぎなんだよ!」
しかしながら、そんなこと知ったこっちゃない変成くん。
気がついたら、窓に足を乗り上げて、そこから飛び降りていた。
「え、おい!」
田中くんの驚くような声がしたと同時に、体がスッと落ちていく。
だけど、落ちてくる私を楓くんは抱きしめてくれ……あ、膝が変成くんの顔面に!!
そのまま私達は草むらに倒れ込んだ。
「だ、大丈夫?」
慌てて起き上がりながら、私は変成くんの顔を覗き込む。
「……大丈夫じゃない」
「ご、ごめん」
「いや、秦のせいじゃないから」
そう言いながら、変成くんは片手で鼻の辺りを押さえ、ゆっくりと身体を起こした。
「秦、大丈夫?誘拐されて何もされてない?」
「待って、それ俺のセリフ……」
変成くんが首を傾げた宋にジト目で返した。
「助けてくれてありがとう。……なんで宋としょーくんがここにいるの?」
「私達はここの宿泊客だ。な、オムライス」
しょーくんはオムライスに声を掛けると「ワン!」と元気良く鳴いた。
< 13 / 25 >

この作品をシェア

pagetop