亡者逃走中in現世
「よーし、ようやく順番きたー!」

特設テント前の長蛇の列に並ぶこと、実に十五分。

ようやく自分の番が巡ってきて、私は目の前にある木製のくじ箱の前に立った。

「はいはい、お嬢ちゃんは色紙十枚だから、くじは二回引けるね。さあ、何が出るかな?」

「はーい」

くじ係の獄卒のおじさんは、満面の笑みを浮かべながら箱を差し出してくる。

上部に開いた穴からは中が見えないけれど、手を入れて混ぜるとカサカサ、ガサゴソと紙がぎっしり詰まっている。

まずは運試しの一回目。

箱の奥深くまで手を突っ込み、念を込めながらガサゴソと漁る。これだ!と直感した一枚を掴み取り、勢いよく引き抜いた。

結果、たわし。

続く二回目。

(今度は運を貯める感じで……頼む!)

バッとくじを引いて、開けてみるとビックリ!

そこに書かれていたのは、なんと『温泉半額チケット』

「よっっしゃぁぁぁ!」

周囲の視線も忘れて、天に向かって思いきりガッツポーズを決める。

一回目の残念賞があまりに切なかった分、跳ね上がった喜びもひとしおだ。

「うるさっ」

変成くんが隣で露骨に引いた目する。

私たちは戦利品のチケットを大事にカバンにしまい、急いで閻魔庁へと向かった。

お祭りの最中だというのに、なんと『十王全員に緊急召集をかける』という緊急連絡が入ったからだ。

せっかくのお祭りなのに、一体何事だろう。

***

​閻魔庁の一室。重厚な長机にズラリと座っているのは、現在行方不明の都市王を除く九人の王達だ。

いつもはガラガラの会議室が、今日は異様な熱気に包まれている。今回の緊急議題は――『都市王失踪事件』について。

「都市王、どこに行ったんだろうね〜」

​宋が机に頬杖をつきながら、退屈そうにポツリとぼやく。その反対の手には、いつの間にか屋台で買ってきたらしい、シナモンシュガーのチェロスが握られていた。

「こちらも情報を探しているが、何も掴めないであるんである」

​分厚い資料をペラペラとめくりながら、平等王がカタブツらしく肩を落とした。

じごさいの疲れと、買い食いの満腹感のせいで、私の意識は急激に遠のいていく。

会議室のエアコンの風が心地よくて、うつらうつらと船を漕ぎ始めた私の肩を、隣に座るしょーくんが容赦なく拳で小突いた。

「秦広王、ちゃんと会議は聞け」

「聞いてる聞いてる……今、都市くんがどっか行ったって話でしょ……」

「そこから何も進んでないんだが?」

しょーくんの言う通り、相変わらず全員が自分の言いたいことだけを主張するため、会議は始まって数分で完全にカオスと化していた。

「いやいや、まず都市王が何をしてるか分からないんだから、オレは趣味を調べるべきだと思うんだよね〜」

「行方不明の捜査も現世で大量発生している亡者の裁判も、どちらも一刻を争う事態である。まずは亡者を片っ端から裁くのが先決であるんである!」

​宋が「はーい」と気楽に手を振り上げると、すかさず平等王が横から大声で口を挟む。

「平等王がいる時の会議はだいたい長引く」

「平等サァの指摘は威圧感が凄くてのぉ……」

「重箱の隅を楊枝(ようじ)でほじくる行為は僕のいないところでして頂きたい……」

変成くんの呟きに乗っかるように、泰山王(たいざんおう)と転輪さん(五道(ごどう)転輪王(てんりんおう))が口を開いた。

その言葉を敏感に察知した平等王が、ガタッと椅子を鳴らして立ち上がる。

「いや、突っ込むだろう!貴様らの出す案はツッコミどころが多すぎるのであるんである!宋帝王はチェロスを食べるし、秦広王は会議の内容を思いっきり聞き逃しているんである!」

「え、私!?ちゃんと聞いてるよ!」

「では今の議題を言ってみろ」

「えっと……都市くんが……行方不明で……あとチェロス美味しそう」

「聞いていないではないか!」

「アタシ、明日学校なんだけどー」

手鏡で前髪をチェックしていたギャルのごーちゃん(五官王)が手を上げた。

ごーちゃんは現世で、女子高生として潜入ライフを満喫しているらしい。

「そもそも、アタシや秦ちゃんみたいな女の子に徹夜はお肌に悪いの!」

ピシッとネイルの施された指を立てるごーちゃん。

玉座の上の閻魔大王は、両手で頭を抱えながら情けない声を上げた。

「う〜ん、やっぱりまとまらないよね〜」

「そもそもの原因はナルシ大王じゃん!」

「ナルシ……言うねぇ」

精神的にダメージを食らった閻魔は項垂れていた。

(相変わらずの豆腐メンタル……)

「都市王の居そうな場所ねぇー。あの子、趣味がアニメ鑑賞だからな〜……アニメとか現世の流行りとか、僕みたいな古い世代にはさっぱり分からないんだよね〜」

「あぁ……」

閻魔の言葉に、カタブツの平等王すら何かを察したように遠い目をした。

「あ、それなら俺、心当たりあるよ」

​変成くんがひらひらと手を振りながら、涼しい顔で口を開いた。

「前に都市王の部屋に用事があって遊びに行った時、部屋の壁一面と、分厚いアルバム数冊に、二次元の推しキャラのブロマイドと同人誌が狂気的な量で大量に敷き詰められてたよ。正直、地獄のどの光景よりもビビった」

「「怖っ」」

​変成くんのリアルな証言に、私とごーちゃんの声が綺麗に重なった。

(いや、人の趣味を悪く言ったらダメだよね……!誰だって、推しは必要だよね……)

「それより、今回の亡者の件も重要だし、都市王が戻るまでどう対応するか考えようよ!」

「その対応策も重要である!」

「いや、まず都市王探さないと!」

議論は完全にエンドレス。

すっかり煮詰まったみんなの手によって、机の上に積まれていたはずの重要書類は次々と折られて紙飛行機化し、びゅんびゅんと空中を飛び交い始める。

さらには誰かがお祭りの屋台で買ってきたラムネと焼きそばを配り始めた。

もはや会議室ではなく、ただの放課後の部室みたいになってるよ!

「話が脱線してるよ〜。はい、戻った戻った」

パンパン!と閻魔が手を叩いて、一同の注目を無理やり集めた。

「前にも言った通り都市王と連絡がつかなくなった。亡者の件もあるし、ひとまず亡者を裁きながら捜査を進める。僕も冥府の方で調べるから、みんなは今のまま現世に留まって今まで通り調べてほしい。頼んだよ」

「はぁ……」

​変成くんが本当にうんざりしたようにため息をつく。

「えー、アタシ明日試験なんだけど〜」

ごーちゃんが眉をへの字に曲げながら、スマホで必死に友達に連絡を取り始めた。

(大丈夫かな……高校生)

「あー、あと報連相は忘れずにね☆」

「解散ってことで良いであるんであるか?」

「うんうん、今日はこれにて解散! みんなお疲れ様ー!」

​閻魔の軽い締めにより、長引いたカオスな緊急会議はようやく終了した。

​アパートへ戻る気力すら残っていなかった私は、閻魔庁にある自分の部屋の布団へダイブするように倒れ込んだ。

身体の力がどっと抜けていく。

「……疲れた……」

机の上にくじで当てたチケットを置き、気絶するように眠りに落ちた。

その後、変成くんと仲良く遅刻したのは言うまでもない。
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