亡者逃走中in現世

三者懇談

「じゅ、じゅうはってん……?」

テストの結果を前に、教壇(きょうだん)で気を失いかけていた。

結果表の中で赤字になっているのは英語。

何度見ても、18。

授業は毎日ちゃんと真面目に聞いていたし、ノートだって綺麗に取っていた。

提出物だって期限通りにきっちり出して提出したはずなのに、どうしてこんなことに!?

私は半ば魂が口から抜けかけた失神状態で、ふらふらと足元をよろつかせながら自分の席に戻った。

「……18点?81点の間違いじゃないの?」

近くに座っていた変成くんが愕然としている。

「うぅ……最近忙しかったからなぁ……」

​人間の学校に通いながら、夜な夜な現世に逃げ出した亡者を捕まえて地獄に送り還して、行方不明の都市くんの捜査をして、さらにまた別の亡者を裁判にかけて……。

十王の中で一番初めに審判するから、結構多忙なんだよね……はは。

忙しさを理由にして現実逃避したいけれど、それにしても悲惨すぎる点数に、私は半分ヤケクソになっていた。
「楓くんはどうだったの?」

隣から覗き込んだ彼の成績表にギョッとした。

(全教科、満点!?)

美しすぎる数字の並びの眩しさに、サングラスが欲しくなる。

「何で……楓くんも私と同じで忙しかったのに」

「俺は六番目だよ。大抵はあの人(閻魔)で結論ついてるよ」

「あー……確かに」

自分でも納得してしまう。

順番的に、私達が裁いた亡者に最終決定を下すのは閻魔。

そして変成くんは、その亡者の転生先を決める役目。

……つまり、よっぽどのイレギュラーがない限り、案件は普通に右から左へと通過していく。

もちろん、それでも激務には変わりないのだけれど、最初のお役目である私に比べれば、自分の時間を確保する余裕は天と地ほどの差がある。

「俺は後半だからね。それに比べて真宵は最初だから忙しいよねー。お疲れ」

変成くんがまるでバイトを労(ねぎら)うみたいに肩を叩いてくる。

「家帰ったら間違ったとこを直そっか」

「うん。そうする……」

変成くんの言葉に肩を落とした。

「ちなみに40点以下の生徒は夏休みの宿題以外にも課題が出てるぞ〜」

全ての成績表を配り終えた先生がそんなことを言った。

教室内には、赤点を逃れてバンザイする子や逆に悲鳴を上げながら机に突っ伏す子、悲喜(ひき)こもごもだ。

「他の教科も中々酷いね。英語以外はギリギリ赤点回避しているけど……」

グサッ!

鋭利な言葉が私の心臓に刺さった気がする。

「ま、課題頑張って」

変成くんが憐れみの目で肩に手をポンっと置いた。

✳✳✳

「はぁぁぁぁ……」

家に戻り、リビングのローテーブルに広げた英語のテスト問題と、真っ赤に添削されたノート。

「疲れた〜、もうやりたくない……」

「まだ十分も経ってないじゃん」

変成くんが鼻で笑いながら、私の英語の問題集をパラパラとめくる。

こっちは精神的にズタズタのボロ雑巾状態だというのに、彼の家庭教師モードは相変わらず言葉に容赦がない。

「そーいや三者懇談(こんだん)どうする?」

思い出したように言った聞き捨てならない彼の言葉に、私はペンを持つ手を止めて顔を上げた。

「三者懇談……」

嫌な予感がして、山積みになったテスト問題のプリントの隙間をガサゴソと漁る。

すると、その間から綺麗に三つ折りにされた『三者懇談会のお知らせと日程調整について』という一枚のプリントが発掘された。

「あ……明日の午後だ……」

あまりの衝撃に、思考が数秒固まる。

「……保護者役で閻魔に頼むしかないね」

​変成くんの冷静な指摘に、私は目から大洪水の如く涙を流しながら「コクコク」と激しく頷いた。

(閻魔……保護者役できるかな?)

「変成くんは?いつなの?」

「俺は三日後だから、まだ先だよ」

「同じ日じゃなかっただけマシだね……」

もし万が一、同じ日に二人の三者懇談が入っていたら、閻魔が同じ学校に二回も足を運ばなきゃいけなくなる。

そうなれば流石に先生から『あれ? この保護者の方、さっきも別の生徒の面談に来ていませんでしたっけ……?』と怪しまれて、一発で身元がバレてしまう。

(まぁ、言ってみるか。保護者役をちゃんとできるか不安だけど……)
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