亡者逃走中in現世
息を切らしながらファミレスのドアをくぐると、奥のドリンクバー近くのボックス席から、メガネ氏とござる氏が手招きしているのが見えた。

「隊長、真宵氏。遅いでござるよ〜!」

「本当に!急に走り去るから何事かと思いましたよ!」

​テーブルの上にはすでに、山盛りのフライドポテトと全員分のドリンクが準備されていた。

「すみません、迷子の案内をしていて……」

都市くんは事前に用意していたであろう言い訳をすらすらとと話す。

「ま、無事だったなら良し!それより隊長、さっきのライブの件ですが!」

メガネ氏が待ってましたと言わんばかりに熱弁を再開する。

​「ツユちゃんの最後のMCの『次はもっと大きなステージで、みんなと新しい景色が見たい』って……あれ絶対、単独アリーナ公演のフラグですよね!?」

「間違いないでござる!拙者、あの瞬間に全財産を次のチケット代に捧げると心に誓ったでござるよ!」

「ええ、同感です」

都市くんは激しく頷きながら、熱く語り始めた。

​『メルキャン』というグループをまだよく知らない私からしたら、目の前で繰り広げられる専門用語はまるで呪文のようだ。

それでも、目を輝かせて楽しそうに語り合うみんなの姿を見ているだけで、こちらまでワクワクしてくる。

「真宵も今日のツユちゃんのライブはどうでした?配信とは、アイドルとは何か掴めましたか?」

​急に話を振られ、私は慌ててコップのジュースをゴクリと飲み込んだ。

​「えっ、あ、うん!本当にすごかった!歌の上手さはもちろんだけど……会場のみんながペンライトを振って、全員でひとつになってる感じが、すっごく温かくて楽しかったよ」

​それは嘘偽りのない私の本音だった。

あのステージで輝いていたアイドルの姿と、客席を埋め尽くすファンの熱気は強く心に残っていた。

「アイドルかぁ……楽しそうだったなー」

余韻に浸りながらポツリとつぶやいた、その瞬間。

​隣に座っていた都市くんが、勢いよく私の手をギュッと握ってきた。

「やりましょう、アイドル!」

「ん!?」

予想外すぎる返答に、私の頭の中は一瞬で真っ白になった。

✳✳✳

配信者の亡者を探すのも大事だけどまずは別の亡者探しだよね。

もう少しでみんな大好き夏休みが始まる。少しでも長く遊べるように、今のうちに片っ端から送り還そう―――そんな軽い意気込みで始めたはずだったのに……。

「……何でこうなってるの?」

​冷たい風が吹き抜ける廃ビルの中。

剥き出しになった鉄骨に頑丈な縄でガチガチに縛られたまま、私は自分を縛り上げた張本人であるしょーくんを睨みつけた。

「何で私が囮(おとり)にならなきゃいけないの!?」

「安心しろ、守ってはやる」

​淡々と短く答えるしょーくん。

今日捕まえるのは、生前暴行やカツアゲを繰り返していた暴走族。パトカーとのカーチェイスの末に全員死亡したんだって。

他の人間に危害が向くくらいなら現場にエサを撒いて釣り上げるしかない……というのは理解できるが、なぜそのエサが私なのか。

「慢心(まんしん)は死亡フラグだって、前に美穂ちゃんが教えてくれたよ!」

​(亡者を送り還したら絶対文句を言ってやる……!)

​心の中で毒づいていると、廃ビルの奥から足音が近づいてくる。

やがて、荒々しい足取りと共に数人の亡者が影から姿を現した。

ピンクや青などの染めた派手髪に、破れた特攻服。

​「へへっ、おいおい……こんな寂しい場所に可愛いお嬢ちゃんが縛られてるぜ?」

「おいおいカツアゲか?おれらも混ぜてくれよ〜」

(本当に来た!?)

​ニヤニヤと笑いながら手を鳴らす亡者達。囮だと分かっていても背筋が冷たくなる。

しょーくんは閻魔帳から刀を取り出して構えるが、数十人にまで増えていく亡者を見渡してから私を見た。

「……こんなに来るとは考えてなかった」

「しょーくん!?」

​縛られたまま叫ぶ私の声が、廃ビル内に甲高く響き渡った。

「集団カツアゲグループって書いてたじゃん。何で確認しないの!?」

「なんだと!言って良いことと悪いことがあるぞ」

「これは言って良いことだよ!」

私達がギャーギャーと揉めている間にも、ガラ悪くニヤつく亡者グループは徐々に距離を詰めてくる。

​「ハッ、仲間割れか?威勢がいいのは結構だが、そっちの男から血祭りにあげてやるよ!」

「おいおい、動画のネタにでもする気か?命が無くなってから後悔しな!」

​思わず目を瞑った刹那―――。

「判決を下す。第三の地獄、衆合地獄」

どこか楽しそうな、しかし、ここにいないはずの変成くんの声が頭上から聞こえてきた。

「「え?」」

私としょーくんはお互い顔を見合わせる。

さっきまで大勢でイキっていた亡者達が、悲鳴をあげる暇すらなく一瞬で送り還されていた。

「二人とも囮になってくれて、ありがとうね」

声が聞こえてきた上を見上げると、変成くんは鉄骨の上で片膝を立て、悠々とくつろいでいる。

「……いや、何故お前がここにいる」

しょーくんの問いかけに対し、変成くんは私の傍に飛び降りて縄を解いてくれた。

「初江王って結構抜けているからさー、囮になってくれるかなーと」

「貴様ぁぁぁ!何一人で美味いところを持っていったんだ!」

「「いや、怒るとこそこかよ!」」

変成くんと一緒にツッコんだ。
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