亡者逃走中in現世
配信生活三日目。

​打倒、亡者!を合言葉に、都市くんの強いススメもあって、私達はネット上で歌や踊りを披露する『歌い手』として活動を始めることに決まった。

バラバラな私達を取り仕切るのは閻魔と都市くん。

閻魔庁に呼び出された私達は、「おお〜!」と目を輝かせた。ドラムにギター、キーボードが揃えられている。

「え、これどうしたの?」

宋が聞くと、都市くんが「閻魔大王に頼み込んだら揃えてくれたんです」と嬉しそうに答えた。

ギターは二台あり、アルファベットのVを逆さまにしたようなデザインだった。

その見た目の通り、フライングVという名前がついているらしい。もう一つのギターはテレキャスターという名前で、丸みを帯びた、落ち着いたクラシックなデザインだ。

「急に楽器揃えてって言われて焦ったよ〜」

「ギターは何故か閻魔庁を漁ったら見つけたんです。でも、状態が悪くて……」

都市くんがテレキャスターの方を手に取って言うと、閻魔が「黒鬼が弦の張り替えや修理をしてくれたんだよ。本当にありがとうね」と続けた。

「お褒めにあずかり光栄です」と黒鬼さん。

とにかく、これで楽器は揃った。

次は、誰がどの楽器を弾くかの割り当てを決めなければいけない。

「というわけで!今日は誰がどの楽器を担当するか決めようね」

閻魔の張り切った声に、みんなで「どれが格好良いか」「何が弾けそうか」とワイワイ話していると、機材をまじまじと眺めていた転輪さんがすっと手を上げた。

「その前に、大王。一つ良いか?」

「どうしたの、五道転輪王」

「楽器の数、人数と合わなくないか?」

転輪さんの指摘に、閻魔庁の空気が一瞬で凍りついた。

​閻魔は固まったまま、汗をたらりと流して部屋を見回している。

​都市くんが指を折りながら人数を数え、真っ青になった。

​「ドラム一つ、キーボード一つ、ギター二つ」

「四つしかないね」

変成くんが他人事のようにぽつりと呟いた。

「仕方ない。楽器担当とダンス担当に分けますか……」

都市くんの提案に、みんな一斉に顔を見合わせた。

「ダンス?」

宋が首を傾げる。

「そうです。楽器を弾かない人達は、歌やダンスを担当してもらいます」

というわけで、楽器担当とダンス担当の二グループに分けることに。一応黒鬼さんにも声をかけたが、「私は裏方で十分でございます」と丁寧に断られてしまった。

「いくよー」

閻魔の合図で「グッとパーで分かれましょ」と声を合わせて片手を出した。

グーを出したのは私、しょーくん、宋、変成王、泰山王、都市くん。

パーを出したのはごーちゃん、閻魔、平等王、転輪さん。

人数の関係で、私達グーを出したグループはダンス担当になった。

それから都市くんを先生に、スパルタ特訓が始まる。

「すみません、初江王。リズムが違います」

ダンスレッスンからわずか五分後。都市くんが額に手を当てて唸った。

「……どこか違ったか?」

「いや、振り付けは合ってますよ。完璧すぎてちょっと怖いくらいに……。でも、リズムが遅すぎるんです」

「……遅い?私としては曲に合わせて動いているつもりだが」

​汗ひとつかいていないしょーくんが、不思議そうに首をかしげる。

「盆踊り並みの遅さですよ」

「そうか」

しょーくんは真剣な顔で頷き、お手本の動画を見る。

それから十分後。

「オレ飽きた〜。変成くんとサボってマンゴージュース買ってくる!」

まさかの宋が飽きて退場。

ちなみに一緒に部屋を出ていく変成くんは、多分最初から練習する気がなかった。

「宋帝サァと変成サァはマイペースじゃっど」

泰山王はワハハと豪快に笑いながら、黒鬼さんから受け取った冷たいタオルとペットボトルの水を手渡してくれる。

「ありがとう!」

「なんのなんの、水分補給は大事じゃっど!」

泰山王は豪快に笑いながら、自分の分の水をぐいっと飲んだ。

その横では、しょーくんがお手本動画を食い入るように見つめている。

「もう一度頼む」

「はい!」

都市くんが再生ボタンを押す。

軽快な音楽が流れ始めた。

「右、左、右、左!初江王、もっとテンポよく!」

「こうか?」

しょーくんが動く。

「そうです!……いや、違います。速すぎます!」

「さっきは遅いと言っただろう」

「極端なんですよ!」

「難しいな」

都市くんが頭を抱える。

その様子を眺めながら、私は苦笑した。

「でも、振り付け自体は本当に完璧なんだよね」

「そうなんですよ……」

都市くんも困ったように頷く。

「初江王、動きそのものは一発で覚えるんです。かなり優秀なんですけど……」

都市くんが遠い目をした。

すると、隣で黙々と練習していた泰山王が口を開いた。

「こげんこっやろう?」

そう言って、泰山王が動画と同じ動きをする。

右、左、ステップ。

くるっと身体を回して、最後にポーズ。

「…………」

「…………」

私と都市くんは顔を見合わせた。

「……上手くない?」

「上手いですね」

泰山王は照れくさそうに頭を掻いた。

「昔から祭りの踊りは好きやったからのぅ。音楽に合わせて身体を動かすたぁ慣れとる」

「なるほど……」

私は泰山王の動きを改めて眺める。

足取りもリズムの取り方も自然で、振り付けを覚えるのも早い。ダンス組の救世主は、まさかの泰山王だったらしい。

一方で部屋の反対側に集まった楽器担当の四人は―――。

「ドラムは持ち前のリズム感が抜群の五官王!」

閻魔の提案にごーちゃんは「アタシ!?」と目を見開いて驚きつつも、ドラムの前に座った。

スティックを握り、とりあえず叩いてみる。

最初の一打(いちだ)が鳴ると、ごーちゃんは楽しそうな表情になり、リズミカルに音を響かせた。

スティックを握る手つきにはぎこちなさはあるものの、とても初心者とは思えない。

ごーちゃんの天性のセンスに、みんなで「おー!」「すごーい!」と拍手を送る。

「五官王、本当に初めて?」

驚く閻魔に、ごーちゃんは照れたように笑う。

「練習すればどんどん上達するんである」と平等王。

「ギターは……僕と五道転輪王!」

閻魔が呼びかけると、転輪さんは一瞬固まったが、渋々ギターを手に取った。

骨ばった指が、弦を弾く。

心地の良い低音が部屋中に響き渡り、都市くんは「上手ですね!」と感心する。

「そしてキーボードはもちろん……」

みんなの視線が平等王に向く。

「待て待て!吾輩、キーボードとやらは弾けないであるんである!」

「とか言ってー、この楽譜、平等王のでしょ」

閻魔がニヤニヤしながら、キーボードの横に置かれていた楽譜らしき紙をひらひらと振った。

「……何であるか、それは」

「目、逸らしてるよ。本当はピアノ弾けるんでしょ、イタリアで弾いてたの知ってるよ」

「な、何故知っているんであるか!?」

平等王が目を見開く。

「いやだって、昔イタリア旅行から帰ってきたと思ったら、信じられないくらい大きなグランドピアノ買ってきたことあったよね」

「……まぁよい。弾けるものは弾けると言おう。だが、この電子の盤でどこまで再現できるかは分からないである」

​ぶつぶつ文句を言いながらもキーボードの前に腰掛けた平等王が、すっと息を整えて鍵盤に指を滑らせる。

先ほどまで「キーボードなんて弾けない」と騒いでいた人とは思えない、音の一つ一つが結ばれるような、滑らかなメロディだ。その技術に圧倒され、全員が称賛を送る。

「すげー、音楽会みたいになってる!」

いつの間に帰ってきていた宋が、マンゴージュースの入った袋をぶら下げながら、キーボードの前にいる平等王を見て目を輝かせた。

「……当然であるんである」

平等王は満更でもなさそうに鼻を鳴らす。

「おい、宋帝王に変成王。サボるな」

「全くだ。普段から自分を律し、怠けることのないように」

すかさずしょーくんと転輪さんから厳しい小言が飛ぶ。

しかし、宋と変成くんは「はーい」と生返事をしながら、手に持った袋からジュースを取り出して私達に手渡してきた。(貰ったマンゴージュースはとても美味しかった!)

「変成くんはダンス踊れるの?」

「踊れないに決まってるじゃん」

「ならサボらないで練習して下さいよ」

「俺、黒鬼さんと同じ裏方が良い。……サボれるし」

詰め寄る都市くんに、変成くんは堂々と宣言した。
< 28 / 31 >

この作品をシェア

pagetop