亡者逃走中in現世
「もう、めっちゃ恥ずかしかった!」

放課後の帰り道。

並んで歩く私の愚痴を、美穂ちゃんは楽しそうに聞いていた。

「でも良いじゃん〜。楓くんが助けてくれたんでしょ?一生の思い出だよそれ」

「もうあれ以来、みんなの視線が刺さる……楓くん本人はどこも怪我してなかったらしいけど」

「あはは、まぁ確かに今日、教室でも『楓くんと白崎さんって…』みたいな噂あったよ?」

「嘘でしょ……」

思わず顔を両手で覆うと、美穂ちゃんはクスクス笑って言った。

「じゃあ、週末リフレッシュしよっか。ね、どっか遊びに行こうよ!」

「え、行く!」

「やった!テストもまだ先だし、ちょうど新しいショッピングモールできたじゃん。そこにスイパラあるんだってさー」

「わぁ、楽しそう!……スイパラって何?」

「えっ、真宵、スイパラ知らないの!?」

​美穂ちゃんが、この世の終わりか信じられないものを見たという顔でガタッと振り返った。

「なんか呪文みたいだね……」

「スイーツパラダイスの略!ケーキとかパフェとかアイスとか、甘いもの食べ放題のお店だよ!」

「え、食べ放題!?」

「そう!だから女子の聖地って言われてるの!」

頭の中に、ショーウィンドウを眺めながらお喋りする光景が浮かぶ。机には沢山のスイーツ。

***

「――というわけで!今週末、スイパラ行くのだ〜!良いでしょ〜」

閻魔庁の執務室。

重厚な玉座(ぎょくざ)の前で、私は両手を腰に当てながら、めいっぱい閻魔に自慢した。

自慢されている閻魔は、何故か『安全第一』と書かれた黄色い工事用ヘルメットを頭に被っている。

「……また埋蔵金(まいぞうきん)探し?」

「そうだよ」

満面の笑みで即答する閻魔。

「うわぁ……」

私達が必死に閻魔の尻拭いしてるというのに、当の本人は趣味の埋蔵金探しですか。そーですか。

「それより、スイパラ行くんだってね?僕の分もお持ち帰りしてきて☆」

(一回しばいても許されると思う)

というか、隠居気味なのに、なんで現世のスイパラは知っているんだ。

「……もしかしてスイパラ行ったことあるの?」

私がじとっと目を細めて睨むと、閻魔はヘルメットの位置を直しながら、わざとらしくゴホンと咳払いをした。

「一度や二度、行ったことあるよ」

「へー、どうだった?」

「最っ高だったよ!とくにチョコフォンデュってやつは凄いね。僕も地獄に掘りたくなったよ」

「掘ったら出てくるの?」

「……多分?」

「おー、じゃあ掘る!」

少しでも希望があるなら実行するよ!

「おう、掘れ掘れ。そして埋蔵金でも見つけてこい。見つけたらご褒美で百円あげるから」

「百円て安っ!?」

思わず全力でツッコんだ。

「あと、何でヘルメット?」

「ヘルメット被るとなんか、こう……テンション上がるよね」

(あ、この人、形から入るタイプだ……)

「……で?本当に掘る気なんですか」

冷ややかな声が、玉座の横から降ってきた。

振り向くと、腕を組んだ獄卒の黒鬼さんがいた。いつものように冷静で、そしてツッコミ担当である。

「もちろんだよ黒鬼!チョコフォンデュの泉を掘り当てるのだ!」

「あぁ、ダメだこりゃ……」

黒鬼さんが額を押さえた。

私は笑いをこらえながら二人に尋ねる。

「それより……スイパラ行ったら、お土産買ってこようか?」

「お土産!?」

閻魔が目を輝かせる。

「もちろんだよ!チョコ系だね?あと、カステラ的なやつも良いなぁ……いや、やっぱ王道のプリンかな!」

「多いですね」

​黒鬼さんが一蹴(いっしゅう)する。そして、私の方へ向き直ると、静かに大人の礼儀正しさで頭を下げた。

「……秦広王様。私も頂いてよろしいでしょうか。できたらで構いませんので、薬屋で胃薬を頼みます」

(黒鬼さん、いつもお疲れ様です……)

「それで?秦広王は自慢しに来た訳じゃないでしょ?」

「自慢しに来ただけという説も十分有り得ますよ」

黒鬼さんの手厳しい言葉に、私は人差し指を立ててチッチッチと振った。

「いやー、お金貰いにきた」

「え?」

「お金……まさか、払ってないんですか?」

「は、払ったよ!家賃、光熱費、水道代、学費、その他もろもろ払ったよね!?」

「それとは別でスイパラ行くから。その為のお金欲しい」

「……それ僕が渡さないと駄目?自分達のお給料あるよね?」

「世の中の中学生はお小遣いを貰ってるんです!郷に入っては郷に従え、って言葉もあるから!」

私が正論で力説すると、閻魔は渋々、懐のお財布からお金を取り出した。お札を掴んでいる指がブルブルとかなり震えている。

「最近、大叫喚地獄(だいきょうかんじごく)の改装工事したからお金ないんだよね……はは」

「あー、亡者が逃げ出したのを知ってブチ切れた変成王様が壊したとこですか……」

「だーかーら!今、ちょっとだけ金欠でね!」

閻魔は両手を広げて、現実逃避の変な踊りを踊り始める。

それを見ていた黒鬼さんは深いため息をつき、自身の懐からスッと何かを取り出した。

「……これでもどうぞ」

差し出されたのは、きっちり三つ折りにされた五千円札。

「え!黒鬼さんが!?」

「閻魔様の尻拭いをさせられていることへの労(ねぎら)いと、来月の報告書を提出させる為の貸しです。期限日までに提出したら金は返さなく大丈夫ですので」

という条件を呑み、黒鬼さんにお金を貰ったので、何だか週末が楽しみになった。
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