愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 瑞樹さんは検品でもするように、それにじっくり目を通す。私はご飯をよそいながら、口を開いた。

「今日の会見、テレビで拝見しました。素晴らしい手術をされていたんですね」

 すると、彼はなんてことないような口調で言った。

「振られた仕事を、予定通りにこなす。医者として、当然のことをしただけだ。それに――」

 瑞樹さんは顔を上げ、対面式のキッチンの向こう側から私を見た。その瞳は、顔合わせの時と変わらない。感情のない、だけどどこかぎらついた、狩りをする野生動物のような顔をしている。

「君との結婚を受け入れたのも、俺が院長になるため。ただ、それだけだ」

 窓の外の風に似た、低く鋭い声。

「ええ、承知しております」

 私は濁りのない声でそう返し、ダイニングに食事を並べるためキッチンを出る。瑞樹さんも証明書を置きに行くためか、一度書斎へ戻ってしまった。

 彼はいつも表情を変えず、淡々とご飯を食べる。笑ったところは見たことがないし、会話も業務連絡程度だ。

 だが、それでいい。予定を教えてくれるのは助かるし、的確に指示を出してくれたほうがこちらとしてもやりやすい。
 いつか子を授からなければならない時が来るだろうけれど、その時はその時だ。

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