愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 え……?

 目を開けると、瑞樹さんは体を起こしており、なぜかその表情は曇っている。

「悪い、今じゃないな」

 瑞樹さんはそれだけ言うと、ベッドを下りて部屋を出ていく。私はひとり、広すぎるベッドの上に取り残されてしまった。

 そっと起き上がると、耳元のイヤリングが揺れる。それが首筋に触れて、ひんやりと痛む。

 私は、瑞樹さんが先ほど放った言葉を思い返した。

『俺は、万智が俺の妻でよかったと思っている。ひとりの人間として、君を尊敬しているよ』

 つまりそれは、妻としては認めてくれたということだ。妻としての役割は、きちんと果たせているということだろう。
 だけど、世継ぎをと言われて及んだ行為を、途中で止められてしまった。

 つまり、私には……女性としての魅力がないのかもしれない。

「はあ……」

 つい吐き出した深いため息が、ひとりぼっちの広すぎるベッドルームに響く。

 いやいや、落ち込んでいる場合ではない。それはそれとして、私はこれからも彼の隣で、妻の役割を果たしていかなければならない。
 それが、〝妻〟の務めなのだから。

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