愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 私、瑞樹さんとキスしてる……。
 少し遅れてその事実に気づき、思考が真っ白になる。

 だけど、嫌じゃない。このまま、もっと――。

 しかし無情にも、彼の唇は程なくして離れた。そっと目を開けると、瑞樹さんは顎に触れていた手で優しく私の髪を撫でる。その顔には、あでやかな笑みが浮かんでいた。

「そろそろ、世継ぎも考えないといけないな」

「よ、世継ぎ……」

 彼の言葉を繰り返し、その意味を理解した途端、全身にこれでもかというくらいの熱が駆け巡った。
 その熱は私に緊張とともに、彼ともっと近づきたいという欲をもたらす。

「はい」

 静かに答えると、再び瑞樹さんの口づけが降ってきた。今度は優しく触れるだけでなく、何度も角度を変えてついばむように落とされる。

 優しいキスに、体から力が抜けてしまう。つい彼の服にしがみついてしまったが、瑞樹さんはそのまま私を横抱きにして持ち上げた。

 ウェルネススペースから、彼が向かったのはベッドルームだ。いつもひとりで寝ているクイーンサイズのベッドの真ん中に、そっと下ろされる。

 瑞樹さんは私に覆いかぶさり、両手首を優しくシーツに縫い留めた。彼の眼差しにさらされ、体が溶けてしまいそうな感覚に陥る。

 ああ、私は今から、この人に抱かれるんだ。
 そう思うと、なぜか視界が歪んだ。この涙は、生理的なものなのだろうか。

 彼が次期院長になるには、世継ぎがいるほうが有利だ。だから誘われたのだろうけれど、私は心の奥から彼に強烈に引きつけられるようななにかを感じていた。

 じっと彼を見つめ返していると、再び彼の顔が近づいてくる。

 今夜、夫と体で結ばれる。改めてその事実を意識してしまい、体がこわばった。思わずぎゅっと目を瞑ってしまう。
 すると、私の手首を掴んでいた彼の手がぱっと離れた。

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