愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 柔らかな光はきらきらとステンドグラスを反射し、チャペル内を幻想的に照らす。
 そんな煌びやかな雰囲気とは正反対の気持ちのまま、淡々と進行した式が終わる。

 チャペルの奥の廊下で、さっさと控室に戻ろうとする瑞樹さんを私はつい呼び止めた。

「瑞樹さん、お父様にご挨拶をさせてくださいませんか?」

 今からなら、まだご挨拶をするチャンスがある。そう思ったのだが、瑞樹さんは首を横に振った。

「父さんなら、もう帰った」

「そう、ですか……」

 この結婚で、心に唯一引っかかっていること。私はまだ、瑞樹さんのご家族誰にもご挨拶ができていない。
 挨拶という工程を飛ばされたまま、彼との結婚が進んでいる。その事実に、つい肩を落としてしまう。

「気にするな」

 瑞樹さんはそう言うと、私の肩に手をのせた。振り返ると、近くで目が合う。
 先ほどの誓いのキスを交わしたときのひんやりとした感触を思い出してしまい、私はつい体をこわばらせた。
 だが、瑞樹さんは顔色ひとつ変えずに、淡々と告げる。

「そんなことよりも、後日の結婚披露パーティーだ。院長になるには、そちらのほうが何倍も重要だ」

 ああ、そうだ。この人は、いつだって正しい。

 あまりにもいつも通りの瑞樹さんに、緊張してしまった自分が馬鹿らしくなる。
 私がこくりと頷くと、瑞樹さんは満足したのか踵を返し、さっさと控室へと戻ってしまった。

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