愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 俺は慌てて、ボイスレコーダーをオンにした。日ごろからなにかしら証拠を掴めたらと、持ち歩いていたのだ。

 彼らの会話には、幸運にも横領につながるととれる発言もある。俺はそれを理事長にすぐさま報告し、ふたりをどうするかの策を練った。

 余罪もあるだろう。そう思い、理事長とともに秘密裏に鴎川の悪事を調べ上げる。そんな作業をし、パーティーまでに見つかったぶんを会場で告発するつもりだったのだ。

 会見では静観していたのは、ここで事を荒げては俺の言葉を誰も信用してくれなくなると思ったから。こういう場では、大人しくしていたほうがいい。

 やがて会見を終え、自分の車でパーティー会場へと移動する。会場入り口の生け花は万智らしく、柔らかくて優しい色をしていた。

 日本らしく、長寿の意味もある菊の花。大ぶりなワインレッドはシックで存在感があるが、周りに添えられた淡いピンクと柔らかい黄色のそれは秋らしい。
 さらに、菊の周りに添えられた白やピンクの小さな実のついた枝ものが、大きな花たちを優しく引き立てていた。

 だが、それを見た院長が言う。

「地味だな。沙久良のほうが、周年パーティーにはピッタリだったんじゃないか?」

「だから頼んだんですよ。万智さんに」

 くすくすと笑う副院長にいい気分はしないが、ここで彼らに挑発されては仕方ない。俺は万智を待つからと、ふたりに断りその場に残った。

 花はすでに生けてある。お手洗いにでも行っているのかと思ったが、待てど暮らせど万智は来ない。
 先に移動したのかと思い、俺は控室へと回った。だがそこには理事長と院長、副院長と沙久良がいるだけだった。

 イランイランの香りが漂う控室の中、俺は顔をしかめた。万智はどこだ。

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