愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 ふと隣を見ると、瑞樹さんはいつもと同じ顔をしていた。
 彼は家でも、テレビカメラを向けられても、結婚式のときも、今ですら表情が変わらない。最初に理事長室で会ったあの時と同じように、無表情なのに、どこか野心をぎらつかせている。

 この人には、野心しかないのかもしれない。だからこそ、彼は私に言ったのだろう。
『君との結婚を受け入れたのも、俺が院長になるため。ただ、それだけだ』と。

 瑞樹さんの堂々とした佇まいは、オーラがある。そんな彼にエスコートされながら、私は招待客に次々と挨拶をした。ほとんどが、医療関係者だ。

 言葉を交わす人々は、瑞樹さんの迫力に緊張しているか、あるいは新参者を値踏みするかのような視線を向けてくる。中堅の医師や病院幹部、私の親戚たちも、一切の媚びを感じさせない瑞樹さんの雰囲気に気圧されているようだった。

 でも、それでいいと思う。結婚を祝うというよりも、みな〝次期院長候補〟がどんな人物かを見に来ているのだから。
 それに、私にはそのほうが好都合だ。彼のためにできることが、はっきりとしている。大人しくつつましやかに。気を利かせ、夫を立てる。それだけだ。

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