愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 今日は昼間に、日本最古の公立植物園へと出かけた。

 天候にも恵まれ、季節の花であるツバキやチューリップはもちろんのこと、温室では珍しい草花を見ることができた。樹齢百年という木も各所にあり、その太々とした幹の生命力には圧倒された。

 丸一日、じっくり花を観ることができたのは、とても楽しかった。瑞樹さんは花が好きな私のために、植物園をチョイスしてくれたのだろう。

 だけど、不安なことがある。

「瑞樹さん、今日一日、退屈ではなかったですか?」

 私は窓の外に視線を向け続ける瑞樹さんに、そっと尋ねた。

 これから院長に就任する瑞樹さんにとって、今回の旅行は束の間の小休憩のようなもの。私のために行き先を選んでくれたのは嬉しいけれど、瑞樹さんの好きな絵画を見に行くほうがよかったのではないかと思ってしまう。

 すると、瑞樹さんはこちらを振り向いた。

「いつも白ばかりに囲われた場所にいるから、久しぶりに開放的で気分転換になった。それに――」

 瑞樹さんは酒杯を置き、私の瞳をじっと見つめる。

「万智が楽しそうに花を見ているのを見るのが、俺はとても楽しかった」

 不意に向けられた優しい笑みに、鼓動がとくりと反応してしまった。

 ああ、そうだ。彼はいつだって、私に甘い。
 私を喜ばせるのがうまいし、こうしてさらりと私をときめかせる。

 これが、彼の教えてくれる〝愛〟ならば、私はもうそれを十分すぎるほどに受け取ってしまっている。

 改めて、彼の愛の深さに気づく。私はこんなにも、彼に愛されているのだ。

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