愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
だが一度だけ、俺が怪訝に思ったことがある。婚姻届を彼女が提出し、翌日に挙式を控えた日のことだ。
婚姻届が受理された旨を記した証明書を確認していると、万智が珍しく話しかけてきた。
『今日の会見、テレビで拝見しました。素晴らしい手術をされていたんですね』
俺の腕を持ち上げて、なにかを見返りに求めるというのか。
だが俺が結婚に求めるものは、ただひとつ。だから、俺は彼女に告げた。
『君との結婚を受け入れたのも、俺が院長になるため。ただ、それだけだ』
それ以上のことは求めるつもりもないし、それ以上のことを求められても応えるつもりはない、という意思表示だった。
しかし、万智は寂しそうな顔などひとつもせず、淡々と答えただけだった。
『存じております』
――父を見返すため。そう思って決めた結婚だったが、これまでの万智の態度と、パーティーでの彼女のふるまいを見ている限り、この結婚は最適解だったのだと思う。
『存じております』と言った時の淡々とした口調も、今日のふるまいを見ても、どうも彼女はこの結婚をビジネスライクに捉えているらしい。
実に好都合だ。俺はそのほうが、やりやすい。
なにがなんでも、父を見返す。望田製薬の社長としてすら俺の結婚に興味がない、あの男をやり込めるには、こうするしかない。
俺はまだ流れてゆく窓外の景色を見つめる彼女を見て、これからも俺の〝完璧な妻〟でいてくれと願った。
婚姻届が受理された旨を記した証明書を確認していると、万智が珍しく話しかけてきた。
『今日の会見、テレビで拝見しました。素晴らしい手術をされていたんですね』
俺の腕を持ち上げて、なにかを見返りに求めるというのか。
だが俺が結婚に求めるものは、ただひとつ。だから、俺は彼女に告げた。
『君との結婚を受け入れたのも、俺が院長になるため。ただ、それだけだ』
それ以上のことは求めるつもりもないし、それ以上のことを求められても応えるつもりはない、という意思表示だった。
しかし、万智は寂しそうな顔などひとつもせず、淡々と答えただけだった。
『存じております』
――父を見返すため。そう思って決めた結婚だったが、これまでの万智の態度と、パーティーでの彼女のふるまいを見ている限り、この結婚は最適解だったのだと思う。
『存じております』と言った時の淡々とした口調も、今日のふるまいを見ても、どうも彼女はこの結婚をビジネスライクに捉えているらしい。
実に好都合だ。俺はそのほうが、やりやすい。
なにがなんでも、父を見返す。望田製薬の社長としてすら俺の結婚に興味がない、あの男をやり込めるには、こうするしかない。
俺はまだ流れてゆく窓外の景色を見つめる彼女を見て、これからも俺の〝完璧な妻〟でいてくれと願った。