愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 どんなに難しい症例を成功させても、父は俺を認めてはくれない。母を守れたかもしれない技術を持っていてもなお、だ。
 あんなことを言われたら、こちらから絶縁してやると思った。俺は、望田製薬の道具じゃない。
 だったら、俺が目指すべきは――。

 父にとって、自分のビジネスに関係あるものはすべて道具だ。光前寺総合病院だって、〝自社の薬を買ってくれる得意先〟という道具でしかない。
 だったら、俺はその〝道具〟のトップである院長の座に立つことで、父と対等な立場になり、ビジネスの場で認めさせてやる。そう、誓った。

 だが、実家の力を借りるわけにはいかない。だから俺は、人に取りつくのが苦手ではあるが、自分の腕を買ってくれている理事長に根回しをした。

 理事長派と院長派が対立しているのは、病院内の誰もが知っている。副院長の座にいる鴎川翼が次期院長候補として君臨している今、彼に取り入るしかないと思った。理事長には、年頃の娘がいるのだ。

 院長のほうが人気なのは承知の上だ。だが、そんなもの今後の出方次第でどうにでもなると思う。

 俺はさらに腕を磨き、やっと理事長の信頼を得ることができた。俺は理事長から、娘との結婚を申し込まれたのだ。
 またとないチャンス。だが、結婚に期待をされても困る。俺は顔合わせの席で、彼女にだけ聞こえるような声で告げた。

『俺が君と結婚するのは、俺が院長になるためだ』

 そのおかげか、同居生活はドライなものだった。

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