愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 やがて、要塞のような石の壁に囲まれた、お(やしき)が見えてくる。これが、鴎川邸だ。

 念のため表札を確認し、固く閉ざされた木の門の隣のインターフォンを押す。するとすぐ、沙久良さんの甲高い声が聞こえた。

「いらっしゃい、望田先生の奥様。素敵なお召し物ね」

 彼女の声は、まるで値踏みをするよう。見えない敵に見られているような居心地の悪さを感じながら、私はカメラに向かって頭を下げた。

「お招き頂き光栄です。ありがとうございます」

 すると、門が静かに開く。中へ入り出迎えてくれたメイドに菓子折りを渡すと、案内されるまま鴎川邸のお庭へと向かった。
 そこには、十人ほどの女性がいた。みな柔らかい顔で談笑していたが、私に気づいたのか彼女たちの視線が一斉にこちらを向く。その顔は怪訝そうに歪んでいる。

 私もつい、目を見開いた。彼女たちはみな、やわらかな素材のシャツにジーンズ、おしゃれな長靴に身を包み、さらに大きなつばのついた帽子を被っていたのだ。
 立ちすくんでいると、沙久良さんがこちらへやってきた。彼女は今日も、イランイランの香りをまとっている。

「万智さん、ごきげんよう。ようこそ、私の〝ガーデニング〟パーティーへ」

「ガーデニング、パーティー……?」

 繰り返すと、彼女はにっこりと口角を上げ、嘲笑するような視線をこちらに向ける。それから、にこやかなまま女性たちのほうを振り返った。

「みなさん、有明会の新しいメンバーを紹介します。望田万智さん。この間、心臓外科医の望田先生と結婚なさった奥様よ」

 みなの前で会釈をしたが、目の前の彼女たちからは戸惑いの声しか聞こえない。気まずくなって早々に頭を上げると、沙久良さんはくすりと笑ってこちらを向いた。

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