愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 有明会のメンバーが、続々とやってくる。彼女たちをリビングへと迎え入れた後、沙久良さんは予定時間を少し遅れてやってきた。
 私はイランイランの香りを気にしないようにして、丁寧に頭を下げて彼女を出迎える。

「お忙しい中、ようこそお越しくださいました。病院ではお見苦しいところをお見せしてしまいましたが、せめてこの家では、ゆっくりとおくつろぎくださいませ」

 頭を上げると、沙久良さんは玄関をきょろきょろと見回していた。

「使用人も雇っていないの? ふふ、なんだか意外だわ」

 彼女はさっそく、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

「このくらいの家の広さなら、私ひとりでできますので」

「あらそう」

 私の言葉を淡々と流し、彼女は私が用意していたスリッパに堂々と足を通した。

 リビングへお通しすると、彼女はさっそく堂々とした足取りでその中央に向かった。

「みなさん、ごきげんよう。有意義な時間をお過ごし?」

 沙久良さんは自分が主役と言わんばかりに、ソファの中央に腰を下ろす。まるで自分の城のような態度に胸がもやもやするが、それを指摘するわけにはいかない。

 私は粛々と、キッチンで彼女の紅茶を用意した。冷房の効いた室内では冷えるだろうと、今日のために取り寄せた高価な茶葉を温度に気をつけて淹れる。カップは繊細な絵付がされた、薄手の白磁だ。

「なにこのお花。大ぶりな花は青、しかも一輪。……センスないわねえ。もっと派手に飾ればいいのに」

 沙久良さんはテーブルの上のアレンジメントを見て、隣に座る奥様に話しかけていた。

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