愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 受付横の花材も水を替えると、私たちはVIPフロアへと向かった。そこでは、今朝もトキさんが私の生けた花を眺めていた。

「トキさん、こんにちは」

 声をかけると、彼女はこちらを振り返る。私の隣に立つ瑞樹さんを見て目をまたたかせたが、すぐに私に優しい笑みを向けてくれた。

「こんにちは。今日は旦那さんと一緒?」

「はい。彼は、この病院の心臓外科医で――」

「初めまして、望田瑞樹です」

 瑞樹さんはいつものように淡々と自己紹介をする。だがトキさんは「あら、男前」と、ふふっと笑った。

「ひまわり、素敵ね。私たちは外に出られないけれど、今の時期を感じられていいわ」

 トキさんは私に向き直り、そう言った。

 この場所は入り口のように開けた場所でないから、アセビのような大ぶりな枝ものがあると窮屈に感じてしまう。
 このフロアに入院されている方はなかなか外に出られないだろうからと、私は季節の花であるひまわりを選んで生けていた。

 ひまわりだって、うまく管理をすれば二週間ほどは飾れる。生けてから一週間が経つが、今はまだ大丈夫そうだ。

「万智はいつもそうやって、花を選んでいるんだな」

 不意に降ってきた瑞樹さんの声に、彼を見上げた。

「入り口のアセビは訪れた人たちが少しでも涼めるように。このフロアには、少しでも夏を感じられるように。見る人のことを、きちんと考えている」

 瑞樹さんは言いながら、目を優しく細める。それで、私の胸はどきりと反応してしまった。

「そんな……」

 慌てて俯き、動揺を隠す。だけど、トキさんはくすくす笑って言った。

「あらあら、ごちそうさま」

 それで、なんだか照れくさくなってしまう。
 私はそそくさと花器の水を替えに行き、ひまわりをそこに戻した。

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