麗華

14、好きだと気づく 前半【麗】

(前半)

昼と夜の境目は、曖昧だ。

大学を出て、スーツに着替え、
別の顔をつくる。

笑って、褒めて、距離を測る。

「Reyくん優しい」

そう言われても、何も残らない。
残るはずもないのだ。

グラス越しの自分の笑顔は、
どこか他人みたいだ。

けれど、
志乃の前では、無理をしなくていい。
飾らなくていい。

黙っていても、変だと思われない。

あの人は、俺を“役割”で見ない。

母と航太が受け入れている人だから、じゃない。

それだけじゃない。

俺が俺でいられる。

それが、どれだけ救いか。



志乃の過去を知ったとき、
守りたいと思った。

壊れたとか、弱いとか、そんな風には見えなかった。
静かに立っている人だと思った。

それでも、
あの人は自分を後ろに置く。

いつも、少しだけ。

「麗くんは頼りになるね」

あの言葉。
姉が弟に向ける安心。
あれは優しさだ。
でも、同時に線だ。

俺はその線の内側にいる。

家族側。

安全な位置。

――それが、苦しい。

触れられない場所に立たされているみたいで。



最近、気づく。

志乃が笑うたびに、胸が熱くなる。

他の男が視界に入るだけで、ざわつく。

それでも何も言わない。
言えば壊れると思っていた。

今までの俺なら、
欲しいと思ったら掴んでいた。

繋ぎ止めるために甘い言葉も使った。

でもそれは、
寂しさを埋めるためだった。

今は違う。

志乃を失うのが怖いんじゃない。
志乃が、自分を諦めるのが嫌なんだ。
笑って線を引く姿が、嫌なんだ。

俺のために、じゃない。
あの人自身のために。

そう思った瞬間、
はっきりした。

ああ、
好きなんだ。
依存じゃない。

埋めるためじゃない。

選びたいと思った。

一緒にいたいと、思った。



閉店後。
店の灯りが落ちて、静かな空気。

「麗くん、今日はありがとう」

いつもの笑顔。
いつもの距離。

その距離が、今日は遠い。

「志乃」

名前を呼ぶ。

少しだけ、声が震える。
志乃がこちらを見る。

「俺、弟じゃない」

一瞬、空気が止まる。

「頼りになる、とか。家族側、とか。そういう位置にいるのはわかってる。でも」

喉が熱い。
逃げ道を残した言い方は、したくない。

今言えば、何かが壊れる。
それでも――

「好きだ」

静かな店内に、落ちる。

志乃の瞳が揺れる。
すぐに、整える。
その整え方を、俺は知っている。

距離を保つための呼吸。
無理に保つ距離感。

それを見た瞬間、
胸が痛む。

でも、引かない。

「俺を好きになって」

奪うんじゃない。
閉じ込めるんじゃない。
選んでほしい。

俺を。

出逢った頃の俺とは違う。

逃げない。

ごまかさない。

欲しいと、ちゃんと言う。

沈黙が落ちる。

答えはまだ来ない。

それでもいい。

好きだと、自分で認めた。

もう、戻れない。
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