麗華

14、好きだと気づく 後半【志乃】

「好きだ」

その言葉は、まっすぐだった。
逃げも、甘さも、打算もない。
ただ、そこに置かれた。

胸が、強く鳴る。

ああ。

私は、気づいていた。
麗くんが特別だと。

重いものを持ってくれる時も、
ぶっきらぼうに守ろうとする時も、
弟の顔をしながら、時々見せる男の目も。

全部、知っていた。
そして、
嬉しかった。



「俺を好きになって」

その言葉に、呼吸が止まる。
もう、なっている。
心はとっくに、揺れている。

でも。

好きになることと、
それを形にすることは、違う。

私は一度、
好きだけで家族を選んだ。
そして壊した。

あの時の私は、
“選ばれたかった”。

今の麗くんは違う。
選ばせようとしている。
それが、痛いほどわかる。



「……ありがとう」

それが、精一杯だった。

麗くんの目が揺れる。
傷つける。
わかっている。

それでも。

「私ね、今のままが好きなの」

逃げではない。
本音だ。

この距離で笑っていられる時間。

航太くんがいて、
2人のお母さんがいて、
麗くんがいる。

壊したくない。
この笑顔の関係を、壊したくない。

「恋は、しないって決めてるの」

静かに言う。

自分に言い聞かせるみたいに。

胸の奥では、
違う声がする。

――嘘つき。

でも、選ぶ。
私は、形にしない。

好きでも。

好きだからこそ。



麗くんは何も言わなかった。

怒らない。
縋らない。

ただ、まっすぐ見ている。

その目が優しくて、
余計に苦しい。

私は笑う。
いつもの、姉の顔で。

「麗くんは、ちゃんと幸せになって。
麗くんは、私じゃなくても幸せになれるから」

その瞬間。
彼の表情が、ほんの少しだけ変わった。

ああ。
これでいい。
これでいいはず。

扉が閉まる。

一人になった店内で、
胸を押さえる。

認める。

私は、麗くんが好きだ。

でも、
恋を形にしない選択を、続ける。

それが、私の守り方。
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