ポンコツ御曹司の初恋は…
「五月ちゃん、いらっしゃい」

なる早で仕事を終わらせ、サボって平日の昼間からデパートに行った。
自分で自分の誕生日プレゼントでも買おうと思ったけど、中々そんな気持ちになれなくって、結局ここに来てしまった。
会社から少し離れたシティホテルの地下のラウンジ。
ここに来たのは会社の株主総会のとき、受付を頼まれて、このホテルに来た日の夜に何気にたまたま覗いたのが初めて。

一人になりたい時や、しがらみの無い誰かに話を聞いて欲しい時なんかにここに来る。
一杯位なら私でも払えるし、何より安心して一人で入れる、メニューにはないけどお腹を空かせた仕事帰りに食べさせてくれる鍋焼うどん。
ゆっくり話を聞いてくれるマスターは私の憩いの場所だ。

「マスター、いつもの」
いつものとは鍋焼うどんと今日のカクテル。
「失恋しちゃった。そんなときはどんなカクテルが良いの?」

「フローズンマルガリータ、元気を出して」

金曜日とはいえ早い時間、かなりお店は空いている。
だからマスターを独り占めできることが出来た。
誰かに話しを聞いて欲しかった。
会社とは関係の無い知らない人に。
黙って聞いてくれて、たまにある相づち。
そんなマスターに勢いよく今日の話をした。

「堅太郎が浮気してたの。相手の子、私の後輩だって。その子に子供が出来ちゃって、…私が浮気相手だったのかな?
でも、堅太郎が言ってた通りかも。私ほんとに好きだったのかな? 回りがみんな結婚するから私も早く結婚したかっただけかも知れないなって。そんな気持ちで付き合っていたからバチが当たったのかな」
悔しいのか、悲しいのかわかんないけど、鼻の奥がつーんとして、涙がこぼれた。

「冷たくて美味しい。
私、結婚に焦ってたのかもしれない。当分婚活はお休みにする。結婚に囚われないで恋愛をしてみたい。優しい誰か、現れないかなぁ」

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