灰色のあたし

1話 歌う夜

六畳一間のワンルームは、静まり返っていた。

脱ぎっぱなしの服が床に落ち、コンビニ弁当の空容器が傾いたまま乾いている。転がったペットボトルが、かすかに光を反射していた。机の上には、開封されない履歴書の封筒。飲みかけの睡眠薬の箱。空になった薬袋。

換気扇の低い唸りだけが、部屋の空気をゆっくりとかき回している。

カーテンは半端に閉じられ、隙間から街灯の白い光が差し込んでいた。その光は、まるで誰かの目みたいに、部屋の隅をじっと見つめている。

未央は机に座っていた。
指先で、処方薬のシートを一枚ずつ弾く。
ぷち、と乾いた音がして、白い錠剤が小皿に落ちる。

 ぷち。
 ぷち。
 ぷち。

その単調な音に合わせるように、未央は小さく鼻歌をうたっていた。
 明るいメロディ。
 けれど、ところどころ音が途切れる。
 皿の中に白が積もっていく。
 未央はそれを両手で包み込んだ。
 少しだけ、震えている。
それでも口元には、うっすらと笑みが浮かんでいた。
まるで、これから楽しいことが始まるみたいに。
 ひとつ。
 またひとつ。
 唇に吸い込まれていく白。
 ペットボトルの水で流し込む。
 喉が、ごくりと鳴る。
 静かな部屋に、その音だけが響いた。

未央「なんであたしだけ……」

 声は、空気に溶けて消える。
 皿は空になった。
 笑みが消えた。
 視界が揺れる。
 胸の奥から、何かがせり上がってくる。

未央「……普通に、生きたかったのに」

 涙が、ぽたりと机に落ちる。
 普通って、なんだろう。
 忘れ物をしないこと?
 怒られないこと?
 ちゃんと働けること?
みんなが当たり前にやっていることが、どうして自分にはできないのか。
 鼻歌は、もう止まっていた。
 代わりに嗚咽がこぼれる。
 机に突っ伏す。
 視界が滲む。
 換気扇の音が遠くなる。
 光が、滲んで、溶けていく。
 真っ白だった。
 何もかも。
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