陰日向に咲く儚花

退勤準備を済ませ、更衣室でエプロンを外し、それから帰宅しようと階段を下りようとした時、「あ!野花さん!」とわたしを呼ぶ声が聞こえた。

わたしは足を止め、その声に振り返る。

その視線の先には日向主任がおり、こちらへ向かって駆けて来ていた。

「日向主任、お疲れ様です。」
「お疲れ様!さっきはごめんね!」

日向主任はわたしの手前で足を止めると、息が上がり少し呼吸が乱れていた。

「いえ、無事終わりましたから大丈夫ですよ。」
「でもかなり残業になったでしょ?」

申し訳なさそうにそう言う日向主任。
しかし、わたしは「でも、日向主任が手伝ってくださってなかったら、もっと残業になってましたから。ありがとうございました。」と言い、頭を下げた。

「いやぁ、でもさ······」
「お気遣いありがとうございます。でも、今後はわたし一人で頑張りますから。日向主任にこれ以上ご迷惑はかけられないです。」

わたしがそう言うと、日向主任は少し眉間にシワを寄せ「それ、もしかして森田さんに言われたんじゃない?」と言い当ててきた。

「さっき言われたんだよ。ホームファッションの主任なのに、何でステーショナリーの仕事を手伝ってるんですか?って。森田さんは不満なようだったけど、俺は俺の考えを伝えたんだ。」

日向主任はそう言うと、森田さんにどんな話をしたのかを教えてくれた。

ステーショナリーはご存知の通り、たくさんの担当部門があるにも関わらず人員は2名しか居ない。
ハードには、"サイクル"の人も居るが、ハード主任である木浦さん含めてサイクル人員は3名。
その為、サイクルもサイクルでギリギリの人員でシフトを回している為、ステーショナリーの仕事を手伝うのには無理があった。

それに比べ、ホームファッションの人員は日向主任を含めれば6名おり、ダイニング担当は森田さん、寝具担当はシニアパートの福西(ふくにし)さん、タオル·スリッパ·バス用品担当は平川さん、トイレ·洗濯用品·防災用品担当がホームファッションの中では最年少で30歳の主婦パートさんである村山(むらやま)さん。

そして、家具·アウトドア用品の担当をしているのが日向主任で、必ずそれぞれの部門には担当者がいる。

ホームファッションは人員が足りている為、日向主任は指示さえすれば、それぞれがそれぞれの業務をこなす事が可能だと話しており、自分が自分の仕事さえ出来ているのであれば、他部署の手伝いをしても問題ないと考えているようで、それを森田さんに話してくれたようだった。
< 23 / 84 >

この作品をシェア

pagetop