陰日向に咲く儚花

「森田さんから何を言われようと、俺の考えは変わりませんから。こちらこそ、ある意味でご迷惑をかけてしまう事があるかもしれませんが、何かあれば俺に言ってください。」

日向主任はそう言うと、「突然呼び止めてごめんね、残業で疲れてるのに。じゃあ、お疲れ様!気を付けて帰ってください!」と、ふと手を上げ、爽やかに立ち去って行った。

「···お疲れ様でした。」

背を向け歩き出す日向主任は、事務室に入って行き、その姿を見送ったわたしは階段を下り始めた。

今までの主任は、パートさんたちの機嫌取りをして、あっちに良い顔して、こっちに良い顔して、どっち付かずの中途半端な曖昧な人ばかりだった。

けれど、日向主任は自分の考えをしっかり持っていて、芯があって、ブレない真面目な人だ。

(あんな人も珍しいなぁ。)

わたしはその帰り道、日向主任の事ばかり考えてしまっていた。


あれから数日経ったが、日向主任は宣言通り、相変わらずわたしの事を気に掛けてくれては、やらなければならない業務が大量にある時は手を差し伸べてくれた。

森田さんも相変わらずで、それが気に食わず、ちょいちょいわたしに嫌味を言いに来たが、日向主任はそれを察知すると「どうしたの?」と何も知らないふりをして、わざとらしく間に入ってくれるようになった。

そんなある日の午後、わたしがキャラクターくじの売価変更の作業と、次の日に発売予定のキャラクターくじ3タイトルの準備をしようとしている時、キャラクターくじが並ぶ売場に日向主任が顔を出しに来た。

「うわっ、これ全部出すの?」

キャラクターくじの景品が入っている大量の段ボールを見て、日向主任が言う。

わたしは「明日3タイトル同時に発売なんですよ。」と言いながら、作業指示書を手に持っていた。

「ん?それは?」
「これは、キャラくじの売変指示書です。500円まで値下げするんですよ。」
「500円?安いなぁ。」
「思ったより売れなくて残っちゃってるんですよね。」
「俺、手伝うよ?今、手空いてるし。」
「いいんですか?」

わたしがそう訊くと、日向主任はわざとらしく辺りをキョロキョロと見回し「今、森田さん休憩行ってるから大丈夫!」と親指を立てて見せた。

「じゃあ、お願い出来ますか?」
「了解!」
「わたし先に売変しちゃうので、日向主任はキャラくじの陳列をお願いします。」
「わかったよ。これ、出し方とかあるの?」
「とりあえず、①って書かれてる段ボールを開けてもらっていいですか?」

わたしがそう言うと、日向主任は山積みになっている段ボールの中から①の段ボールを見つけ出し、「これだね!」と①の段ボールを抱えた。
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