陰日向に咲く儚花


***


9月に入ると、予定通り喪中ハガキ印刷の承りが開始し、受付カウンターには「すいません、喪中ハガキの印刷お願いしたいんですけど。」と来店するお客様がいらっしゃるようになった。

その度に「菫ちゃーん!喪中きたよ!」と呼ばれ、売場での作業が中断される。

しかし、今はまだ喪中ハガキの受付だけなので、これでもまだマシな方だ。
年賀ハガキ印刷の受付が始まれば、受付に列ができる程、お客様が来店される為、通常業務などやっていられなくなる。

すると、ある喪中ハガキの印刷の受付時に慈がやって来た。

「隣で見ててもいい?」

どうやら、承りのし方を覚えようとしてくれているようだった。

「どうぞ。」

わたしがそう言うと、慈はわたしの隣のパイプ椅子に座り、申し込み書の書き方や金額の出し方などを見て覚えようとしていた。

わたしがお客様が記入してくださった申し込み書を確認し、記入漏れを見つけると、わたしはお客様にご説明をする。

「こちら、"差出月"に丸がついてないんですが、指定がない場合は全て12月になってしまいますけど、よろしいですか?」

わたしがそうお客様に確認すると、お客様は「あー、そうなの?じゃあ11月にしといて。」と言った。

「かしこまりました。」
「あ、あとさ、年齢なんだけど、亡くなった時の年齢で書いちゃったんだけど、大丈夫かな?」
「はい、問題ないですよ。一般的には"数え年"で記載するみたいですけど、今は"満年齢"で記載するケースも増えてきていますから、お客様のご判断で決めていただいて構いませんよ。」
「そうなんだね。お姉ちゃん、若いのに詳しいね。」

わたしは愛想笑いを浮かべ「ありがとうございます。」と言うと、金額を記入し、最終的に仕上がり予定日の確認をして、お客様にご説明をすると、承りを完了させた。

「ありがとうございます、またお越しくださいませ。」

わたしがお客様をお見送りすると、その隣では「さすがだね。」と呟く慈さんが立っていた。

「毎年やってるからね。」
「でも、毎年って言っても何ヵ月も期間空くし、忘れちゃったりしないの?」
「実際にやると思い出してきちゃうんだよね、これが。」
「なるほどね〜。」

受付カウンターでそんな会話をしていると、後ろから何だか視線を感じ、ふと振り返ってみる。
すると、そこには面白くなさそうな表情を浮かべ、棚の陰からこちらを見ている森田さんの姿が見えた。
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