陰日向に咲く儚花

竜介本人が気付いているかは知らないが、元々"イケメン課長"や"愛妻家"などと持て囃されていたところからの離婚で、"警察沙汰"、"不倫"、"モラハラ"という噂から竜介への印象はかなり下落していた。

沙瑛さんとの再婚も良く思われておらず、沙瑛さんが結婚してから結婚指輪をしている姿は一度も見たことは無い。
きっとわたしへの慰謝料の支払いで、結婚指輪を買う余裕がなかったのだろう。

竜介は、粟屋課長との雑談がなくなり、事務室にわたしが居る事に気付くと、居づらくなったのか事務室から出て行った。

(やっとうるさいのが居なくなった。)

そう思いながら、やっとわたしは目の前のパソコン内で流れ続ける"年賀·喪中ハガキ印刷"についての説明に集中出来たのだった。


そして、その日の夜。
わたしは沙瑛さんに話し掛けられた事を慈に話した。

わたしたちは食事やお風呂など、全てが終わって落ち着いてから、二人での会話をする時間を設けるようにしているのだ。

「えっ、柴原さんから?」
「うん。何か、かなり参ってるような感じだった。」
「でもさ、不倫してまで野花課長を選んでおいて、元妻の菫にそんな話するなんて、どんな神経してるんだよ······」

呆れ口調でそう言う慈は、自然とわたしの手を握り「大丈夫だった?」とわたしのメンタルを心配してくれた。

「わたしは大丈夫。あんな男、もらってくれてありがとうございます、なんて嫌味言っちゃった。」
「そのくらい言ったって問題ないだろ。傷付けられたのは、菫の方なんだから。」
「んー、まぁ···、でもわたしも同じ事言われてきたから、沙瑛さんのツラさはわかっちゃうんだよね。」

わたしがそう言うと、慈は「もぉー、菫はどうしてそんなに優しんだ。」と言いながら、わたしを抱き寄せてきた。

「別にそんなんじゃないよ。」
「傷付けてきた相手に、"ツラさが分かる"だなんて普通言わないし、思わないよ?自業自得なんだからさ。でも、菫のそう言うとこも好き。」

慈はそう言って、わたしの額にキスをした。

「あれ?おでこにだけ?」

慈のキスの後にわたしがそう言うと、慈はニヤッと笑い「おぉ〜、どこにして欲しかったのかな?」と言った。

「さぁ、どこでしょう?」
「んー···、ほっぺ!」
「違います。」
「じゃあ、首!」
「んー、違うなぁ。」
「じゃあ〜······」

慈はそう言うと、わたしの耳元に顔を寄せ「俺がしたいとこに全部する。」と言って、首筋に口付けたあと、わたしを押し倒してきた。

そして「いい?」とわたしに確認する慈。
わたしは「仕方ないなぁ〜。」と照れ隠しの返事をして、そのまま慈の事を受け入れた。

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