迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~
光の精霊師として普段から出入りしているミリーネにとって、この古城は勝手知ったる場所のようだった。その足取りに迷いはない。
「ここに入って」
連れて来られたのは三階にある、大広間から離れた場所の応接室だった。
言われるがまま中に入ると、ミリーネは廊下に人気がないのを確認してから扉を閉める。
手にしていた刃物は折りたたみ式だったようで、ミリーネはそれをたたむと側にあったテーブルの上に一旦置く。
「高尚な公爵家の舞踏会に、まさかおまえのような鼠が入り込んでくるなんてね。予想もしていなかったわ」
腕を組んで淡々と話すミリーネ。
フィリーネは弁解しようとこれまでの経緯を口にした。
「申し訳ございません、お姉様。マツの木さんと結婚はしましたが、木が折れて結婚どころではなくなってしまい……」
「は? おまえったら、まさか本気で私がマツの木と結婚しろなんて言ったと思っているの? 相変わらず救いようのないほど愚かね。そんなのただの冗談に決まってるでしょ」
ミリーネは確かにマツの木と一生を添い遂げろと言っていた。持ち場を離れるなとも。
ただの冗談だと今さら言われても、それで屋敷に帰ったらどうなっていたか簡単に想像がつく。
「冗談だと仰いますが、あの時のお姉様は頭に血が上っていらっしゃったので、本気だったとお見受けします。二度と屋敷に戻ってくるなと仰ったのはお姉様です」
事実を述べると図星を突かれたミリーネがぐぅっと唸った。
「へ、減らず口を叩いていられるのも今のうちよ。とにかく、今すぐドレスを脱いでこれに着替えなさい」
ミリーネがクローゼットから服を放り投げてくる。
両手で受け止めたフィリーネが確認すると、それは使用人が着るお仕着せだった。