迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~
「十数年も一緒に暮らしていたくせに、フィーの良さが分からないなんてそれこそ見る目がない。フィーは可愛い。誰がなんと言おうと可愛すぎる」
フィリーネに想いを馳せるシドリウスは、うっとりとした表情で語った。
ふと、シドリウスは掴んでいるミリーネの手に目が留まる。
「これは血か?」
ミリーネの爪には血が付着していた。
親指の腹で拭えば取れるくらいには、まだ新しい。
ミリーネは鼻を鳴らしながら、シドリウスの掴んでいる手を振りほどく。
「忌み子が指輪を返してって暴れたのよ。爪で引っ掻いたからその時の血だわ」
「……フィーを傷つけたのか?」
「私は悪くない。あの子がいけないのよ」
フンッと鼻を鳴らすミリーネ。
一方で、シドリウスは体内の血が沸騰していくのを感じた。
怒りが抑えられない。目の前が真っ赤になる。
「私の言うことを聞いて大人しく従っていれば怪我なんてしなかっ……、きゃああっ!!」
ミリーネの悲鳴がバルコニーに響き渡った。
何故ならシドリウスの美しい顔が歪み、口が裂けているからだ。陶器のように滑らかだった肌には鱗が現れ、徐々に人間とは違う生き物へと変化していく。
上背があるシドリウスがさらに大きくなる。
バルコニーはシドリウスの重みでヒビが入った。
ミリーネは間一髪で大広間に戻る。それと同時に激しい音を立ててバルコニーが崩れた。
「おい、あれは何だ?」
「外に何かいるぞ!」
「きゃああっ!!」
異変に気づいた貴族たちがどよめいて悲鳴を上げる。
怒り狂うシドリウスは、竜の姿になっていた。