迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~
きちんと出迎えの挨拶がしたかった。労いの言葉もかけたかった。
フィリーネが非難めいた声を上げると、シドリウスが頬杖をつきながら真顔で言う。
「豪快ないびきをかいて幸せそうに寝ていたからな。起こすのは忍びなかったんだ」
フィリーネは両手で口もとを覆い、周章狼狽する。
「ま、まさかそんな醜態を晒していたなんて。申し訳ございません!」
「ついでに言うと、腹を丸出しにして眠る猫みたいだったな…………というのは冗談だ。だからそんな顔をしないでくれ」
フィリーネが涙目になったところで、今度はシドリウスが慌てふためく。
醜態を晒していないと分かってフィリーネは胸に手を置いて愁眉を開いた。
(良かったです。間抜けな姿を見られなくて)
エリンジャー家の舞踏会でフィリーネはシドリウスが好きだと気づいた。好きな相手には自分の良い面を見て欲しい。
たとえこの気持ちが一方通行だったとしても。
「帰ってくるのに時間がかかってすまなかった。事後処理に追われていたからな」
シドリウスは身を起こすと、ベッドから降りてカーテンを開く。
窓の外は、雲一つない青空が広がっている。
掃き出し窓を開ければ、夏のからりとした空気が流れてきた。
フィリーネもベッドから降りようと床に足をつける。
シドリウスは外の景色を眺めたまま、口を開く。
「……おまえの家族がどうなったか訊きたいか?」
尋ねられたフィリーネは、背筋を伸ばした。