迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~


 生贄の花嫁として自分の役目を果たそうと積極的に行動してくれているのは伝わってくるが、こちらが一歩踏み込めばすぐにもとの距離感に戻されてしまう。
 フィリーネの心に触れられそうで触れられない。それがもどかしくてひどく焦れったい。

(生活環境が大きく変わったから、慣れるまで戸惑うことも多いだろう。フィーが落ち着いて、俺の気持ちをきちんと受け止められるようになるまでは、待つつもりでいる)
 逸る気持ちを抑えながら、自分に慌てるなと言い聞かせる。
 ヒュドーはそんなシドリウスの様子を見て肩を竦めた。

「申し上げにくいんですけど、恋い焦がれるシドリウス様の姿を拝見するのは新鮮です。フィリーネ様の時にだけ見せる蕩けるような笑みとか。粛正された悪徳貴族たちが見たら絶対に泡を食うと思います」
 冷酷無比な竜王陛下としてその名を轟かせているシドリウス。
 そんな彼が、番に翻弄されているなんて当時の彼らは想像もつかないだろう。

「竜人にとっては普通だ。さて、そろそろ次に取りかかろうか」
 風に乗って、先ほどよりもアップテンポの旋律が流れてくる。
 シドリウスはそれに耳を傾けながら、再び仕事を始めた。

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